警備会社へ入る前、私は勝手に文化など一切ないと思い込みをしていた。
警備員同士の会話といえば、
「暑いね。」
「今日は長いね。」
「早く終わらないかな。」
そんなぶっきらぼうな話題ばかりだろう、と。

ところが現実は違った。
工事現場の警備には、ときどき文化の匂いがする人が現れる。
私が「まじめパンク」と呼んでいる男も、その一人だった。
パンク少年は警備員になったwow
彼は私より十歳ほど若い。
一見すると、ごく普通の警備員である。
朝は誰よりもきちんと挨拶をする。
現場では隊長を任されることも多い。
歩行者への声かけも丁寧。
作業員へのあいさつや返事もとても丁寧。
監督からの信頼も厚い。
だから最初は、まさかパンクロック? そんな趣味を持っているとは思わなかった。
休憩時間だった。
何気ない雑談の中で、
「昔からパンクバンドをやってるんですよ。」
と、ぽつりと言った。
「え、本当に?」
そこから話が止まらなくなった。
音楽がつないだ警備の現場
私は以前、音楽の店をやっていた。
最初はジャズバーにするつもりだった。
ところが店は、お客さんによって育てられた。
DJイベントをやり、弾き語りライブをやり、ロックも流れた。
そんな話をすると、彼は身を乗り出してきた。
「あのバンド、知ってます?」
「そのライブハウス、行ったことあります?」
私の知っているミュージシャンの名前を出すと、目を輝かせた。
実際にプロのミュージシャンのライブも私のやっていた店で行ったことがある。
さらに、私が故郷で企画した小さな音楽イベント、「世界一小さなロックフェスティバル」の話になると、彼は驚いていた。
「そんなことやってたんですか!」
警備服を着ていると、お互いの過去なんて分からない。
でも、誘導棒を置いて話し始めると、それぞれの人生が見えてくる。

制服を脱げば、また音楽が始まる
彼は、警備仲間とスタジオを借りて演奏しているという。
元バンドマン。
元カメラマン。
音楽好き。
そんな警備員たちが集まって、休日になると音を鳴らす。
聞けば、写真撮影までしているらしい。
「この前は、ママも来ましたよ。」
ママとは、私がそう呼んでいるスナックのママ風警備員のことだ。
「あの人、ドラム叩いたんですよ。」
私は思わず笑ってしまった。
工事現場で黙々と交通誘導をしている女性が、休日にはドラムを叩いている。
そんなこと、誰が想像するだろう。
警備会社というのは、本当に面白い。
「一緒にやりませんか」とパンク警備員は言った。
私は少しだけギターを弾く。
うまくはない。
店に出入りしていたミュージシャンを見よう見まねで覚えた程度だ。
その話をすると、彼はすぐに言った。
「今度、一緒にやりませんか。」
その一言が、なんだかうれしかった。
仕事仲間としてではない。
音楽仲間として誘ってくれたのだ。
六十を過ぎてから、そんな言葉をかけられるとは思っていなかった。
人生は分からない。
パンクだけど、まじめ。だから・・・
私は彼を「まじめパンク」と呼んでいる。
理由は簡単だ。
パンクが好きなのに、性格は実にまじめだからだ。
(パンクロックをやっている人が皆不真面目というわけではない)
現場では責任感がある。
隊長も嫌がらず引き受ける。
新人にも親切だ。
仕事をごまかさない。
だから周りの評判もいい。
ときどき息子さんの話もする。
父親としての顔が、ふっと見える瞬間がある。
ロックを愛し、家族を大切にし、仕事もきちんとやる。
そんな人だった。
制服の下には、それぞれの人生がある
警備員という仕事は、不思議な仕事だ。
みんな同じ制服を着ている。
でも、その制服を脱げば、
ギターを抱える人がいる。
ドラムを叩く人がいる。
カメラを構える人がいる。
文章を書く人がいる。
誰もが、自分だけの人生を持っている。
私は思う。
警備員の中には、元バンドマンが、まだまだたくさんいるのではないか。
夢をあきらめた人ではないはずだ。
生活のために制服を着て、ヘルメットを被りながらも、休日になればアンプのスイッチを入れる人たちだ。
工事現場では、削岩機の音が響く。
休日には、ギターが鳴る。ドラムが唸る。
そのギャップが、私は好きだ。
だから私は今日も、現場で新しい人に会うたび思う。
「この人は、制服の下に、どんな人生を隠しているんだろう。」
『警備員ブルース』は、そんな人生の音色を少しずつ拾い集める物語でもある。
さあ、一曲やりますか!
