
工事現場には、不思議な人が集まる。
怒鳴る人。
仕切る人。
しゃべり続ける人。
そして、「健康を守ることが人生の使命だ」と本気で思っている人もいる。
私が「ミス養生」と呼んでいる女性警備員が、その人だった。
初めて会ったときから印象に残った。
姿勢がいい。
表情に迷いがない。
目に力がある。
警備服を着ていても、どこか先生のような雰囲気が漂っていた。
現場が一緒になると、休憩時間は決まって健康の話になる。
「それは体を冷やすよ。」
「これは食べたほうがいい。」
「あれは毎日食べちゃ駄目。」
食品添加物、ミネラル、腸内環境、睡眠、水……。
話題はいくらでも出てくる。
私は仕事中、飴やキャンディーをよくなめる。
長時間立ちっぱなしの現場では、ちょっと口に甘いものを入れるだけで気分が変わるからだ。
親しい警備員には、よく配って歩く。
ある日、ミス養生さんにも差し出した。
彼女は飴を見つめて少し笑った。
「本当はね、砂糖はあまり良くないの。」
そう言いながら受け取る。

「でも、ありがとう。」
その一言が、いかにも彼女らしかった。
否定だけでは終わらない。
相手の気持ちも受け取る人だった。
あとで聞いた話では、世の中がコロナ一色だった頃、
現場で会う警備員に自分の考えを熱心に話していたという。
「よく考えて決めたほうがいい。」
そう声をかけ続けていたらしい。
私はもともと自分で情報を集めて考える性格だったので、その話を興味深く聞いていた。
彼女は流行だから信じる人ではない。
自分で調べ、自分で判断する人だった。
現場が一緒になるたび、新しい資料を持ってくる。
コピーした健康新聞。
栄養の記事。
自然療法の話。
「これ、読んでみて。」
そんなふうに渡してくれる。
警備だけが彼女の仕事ではない。
自分の会社も立ち上げ、名刺も持っている。
現場では隊長を任されることも多い。
私は面倒なので、隊長役はなるべく断ってきた。
だから余計に感心する。
責任を引き受ける人は、それだけで立派だ。
ミス養生さんと話していると、不思議と背筋が伸びる。
健康の話だけではない。
生き方そのものが真っすぐなのだ。
現場が終わるころには、私まで少し姿勢が良くなったような気がする。
警備会社は人生の吹きだまりだと書いた。
だが、吹きだまりには、こんな人もいる。
人の体を気づかい、人の未来を気づかう人。
私は今日も現場で思う。
警備会社には、まだまだ面白い人がいる。
物語は終わらない。
あ、またあの人が・・・・
