警備員ブルース|人生の波止場から響くもの

警備員になろうかな、と思ったらまず読んでください。 実体験者が現場で出会った人間たちを、本音で語る警備員の実情。

警備員物語100

【警備員物語08】熱中キャプテン ― 熱中症を救う

投稿日:

警備会社には、必ず一人はいる。

声が大きい。

指示が鋭い。

現場を引き締める。

そして新人には、やたら厳しい。

私が勝手に「キャプテン隊長」と呼んでいた男が、まさにそうだった。

初めて一緒の現場になった日のことを、今でもよく覚えている。

私は入社したばかりで、交通誘導もまだぎこちなかった。

歩行者への声かけも遠慮がちだった。

すると無線から声が飛んできた。

「もっと歩行者を見て誘導してください!」

「了解です。なるべくそうします。」

私は何気なく返事をした。

次の瞬間だった。

「『なるべく』とは何だー!」

無線が割れんばかりの大声だった。

周りの隊員まで一瞬黙る。

私は思わず顔をしかめた。

(なんだ、この人。)

こちらも短気である。

理不尽に怒鳴られるのは昔から好きではない。

広告代理店でも、飲食店でも、言い返してしまう性格だった。

だから、この隊長とも何度か小競り合いになった。

向こうも、

「うるさい新人だ。」

そう思っていただろう。

私も、

「ずいぶん偉そうな隊長だな。」

と思っていた。

年齢も、たぶん私より少し若い。

それでも指示の出し方は、まるで高校野球のキャプテンだった。

だから私は心の中で彼を「キャプテン隊長」と呼ぶようになった。

ところが、その印象をひっくり返す出来事が起きる。

入社して二年目の夏だった。

東京の暑さは異常だった。

アスファルトから照り返す熱。

空気まで熱い。

誘導棒を握る手にも力が入らない。

その日、私は自分でも気づかないうちに熱中症になっていた。

足元がふらつく。

言葉がうまく出てこない。

自分では普通に話しているつもりなのに、周りから見ると様子がおかしかったらしい。

誰かが無線で報告した。

すると、あのキャプテン隊長が駆け寄ってきた。

私はまた怒鳴られるのかと思った。

ところが違った。

「どうした?」

その声は驚くほど静かだった。

私の腕を支えながら、公園の木陰まで連れていく。

「ここで休もう。」

「静かにして。」

私は申し訳なくなり、

「すみません……。」

と言おうとした。

すると彼は、少し強い口調で言った。

「いいから黙って。」

「今は何もしゃべらなくていい。」

いつもの怒っている表情とは全く違った。

助けようとしていたのだ。

それから支社へ連絡が入り、迎えの車が来た。

冷房の効いた車内で体を冷やし、その日はそのまま帰宅した。

意識がぼんやりする中で、最後まで覚えているのは、キャプテン隊長の落ち着いた表情だった。

あの日から私は、彼の呼び名を変えた。

「熱中キャプテン。」

熱中症から助けてくれたキャプテン。

口うるさい。

厳しい。

新人には容赦がない。

だけど、本当に人が困ったときには、一番先に動く。

それが彼だった。

あの日、私は初めて彼の本当の姿を見た気がした。

厳しさは、人を見捨てるためではなかった。

事故を起こさせないためだった。

命を守るためだった。

警備という仕事は、安全を守る仕事である。

だから隊長は厳しい。

その意味が、ようやく分かった。

帰宅してから、昔見た映画の宣伝のナレーションを思い出した。

「男はタフでなければ生きていけない。やさしくなければ生きていく資格がない。」

レイモンド・チャンドラーの作品だったよな、確か。

少し言葉は違うかもしれない。まあいいや。

けれど、あの日のキャプテン隊長を思い出すたびに、この言葉が胸によみがえる。

警備会社には、怒鳴る人もいる。

変わった人もいる。

個性の強い人ばかりだ。

だが、その制服の奥には、思いもよらない優しさを隠している人がいる。

熱中キャプテンは、そんなことを私に教えてくれた。

だから私は今でも、夏になるたびに思い出す。

あの暑い日、公園の木陰で、

「黙って、静かに休んでいればいい。」

と言ってくれた、あの一言を。

「男はタフでなければ生きていけない。
やさしくなければ生きていく資格がない。」

「警備員の証明」とでもいいますか。。。

-警備員物語100

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再起プランナー。現在、現役警備員として働きながら、自らの再起を模索中!

元広告代理店勤め、フリーランスプランナーへ。店舗経営(DJバー)を経て、事業に失敗。

その後、地方ホテル支配人、配送、飲食、施設警備、交通誘導など、さまざまな現場仕事を経験する。

現在は交通誘導警備の現場に立ちながら、仕事の厳しさ、人間模様、収入、失敗談、そして現場で見つけた小さな希望を「警備員ブルース」に記録しています。

人生は、思いどおりにいかなくなってからも、続く。

失業した人、仕事に行くのがつらい人、60代からの働き方に迷っている人へ。成功者の上から目線では全くなく、現場で働く一人として、警備員という仕事の現実と、人生をもう一度立て直すためのヒントを届けます。

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