
警備員の仕事をしていると、「この人がいると安心する」という人に出会う。
仕事が飛び抜けて速いわけではない。
声が大きいわけでもない。
目立つタイプでもない。
それでも、一緒の現場になると、なぜか気持ちが落ち着く。
私にとって、そんな存在がいる。
私は勝手に「ナットー隊長」と呼んでいる。
もちろん本名ではない。
ニックネームだ。
由来は単純である。
ある日、休憩時間に健康の話になった。
「納豆って毎日食べてる?」
そう聞くと、彼は笑って言った。
「もちろん食べてるよ。」
それ以来、私の中では「ナットー隊長」になってしまった。
実は彼、以前は薬剤師として働いていたという。
だから健康については詳しい。
それでも、妙な知識をひけらかすことはない。
むしろ、人の話を素直に聞く。
以前紹介した健康オタクの女性警備員、「ミス養生さん」の話も熱心に聞いていた。
「納豆はいいですよ。」
「クエン酸もおすすめ。」
「重曹も体にいいですよ。」
そんな話を、「へえ、そうなんだ。」と素直に受け止める。
元薬剤師なのに、決して偉そうにしない。
知識がある人ほど、人の話を聞くものなのかもしれない。
彼の良さは、それだけではない。
人当たりが、とても柔らかい。
誰に対しても自然体。
現場監督にも。
職人さんにも。
新人にも。
ベテランにも。
話しかけやすい。
だから、常駐現場の隊長を任されることも多い。
現場へ行くと、「ああ、今日はナットー隊長か。」
それだけで少し安心する。
指示は丁寧。
空気も和やか。
必要以上にピリピリしない。
もちろん、安全に対してはきちんとしている。
しかし、人を追い込むような言い方はしない。
だから現場全体が落ち着く。
私は思う。
警備の仕事は、人柄が出る仕事だ。
技術だけではない。
資格だけでもない。
一緒に働きたいと思われるか。
安心して任せられるか。
そこが大きい。
ナットー隊長は、それを自然にできる人だった。
先日も現場で顔を合わせた。
私は真っ先に聞いた。
「相変わらず納豆食べてる?」
すると彼は、いつもの笑顔で答えた。
「もちろん食べてるよ。」
それだけの会話なのに、なぜかこちらまで元気になる。
警備員という仕事は、暑さとも寒さとも戦う。
理不尽なこともある。
疲れることも多い。
そんな毎日の中で、「元気?」と気軽に声を掛けられる仲間がいることは、とてもありがたい。
私は健康法には、それほど詳しくない。
納豆がどこまで体にいいのか、医学的なことは専門家に任せるしかない。
けれど、一つだけ分かることがある。
笑顔で納豆を食べている人は、たいてい元気だ。
そして、その元気は周りにも伝わる。
警備の現場には、いろいろな人がいる。
ミスター完璧。
ラジオ平さん。
ミス養生さん。
無口の警備員。
そして、ナットー隊長。
一人ひとり違う。
だから面白い。
今日もどこかの現場で、ナットー隊長は休憩時間に納豆をかき混ぜているかもしれない。
私は心の中で思う。
「納豆、納豆。」
それだけで、何だか少し元気が出るのである。
