警備員ブルース日誌

【物語04】怒って笑える板前警備員・ポテチ

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怒鳴られたら、怒鳴り返す

警備会社へ入って間もない頃だった。

まだ現場の流れもよく分からない。

誘導もぎこちない。

そんな私と組んだのが、後に私が「ポテチ」と名付ける男だった。

現場に着くなり、彼はいきなり怒鳴った。

「おい! 何やってんだ!」

初対面である。

まだ仕事も始まったばかりだった。

新人だから気に入らなかったのか。

それとも、もともと短気なのか。

理由は分からない。

だが私は昔から、理不尽に怒鳴られるのが嫌いだった。

広告代理店でも、飲食店でも、自営業でも、怒鳴られて黙っている性格ではない。

だから私は、ほとんど反射的に怒鳴り返した。

「そんな言い方しなくてもいいだろ!」

現場の空気が一瞬止まった。

すると、それまで威勢の良かった男が、急に静かになった。

拍子抜けするほど、おとなしくなったのである。

どうやら彼は、普段は誰にも言い返されないらしい。

私は心の中で吹き出した。

「あれ? 案外、打たれ弱いんだな。」

彼は、昔は板前だった

あとで他の警備員から聞いた。

「あいつ、昔は板前だったんだよ。」

なるほど。

言われてみれば、いかにも板前らしい顔をしている。

職人気質。

短気。

声が大きい。

妙に上下関係を気にする。

私は昔、居酒屋でアルバイトをしていたことがある。

その店の主任も元板前だった。

何かあるたびに、

「ポテチ食え、ポテチ。」

と訳の分からないことを言っていた。

そして目の前の男は、その主任にどこか似ていた。

その日から私は、心の中で彼を「ポテチ」と呼ぶようになった。

もちろん本人は知らない。

知ったら、また怒鳴られそうだからだ。

「オチボ」と「オチボ….さん」

ある日のことだった。

現場で隊長役だったポテチが、隊員全員に書類を書かせていた。

名前。

住所。

年齢。

私は何気なく記入して渡した。

しばらくして、ポテチが私の用紙を見た。

その瞬間だった。

「あ……。」

そんな顔をした。

どうやら私の年齢を見たらしい。

私は彼より三歳ほど年上だった。

それまで彼は、

「おい、オチボ!」

と、呼び捨てだった。

ところが、その日を境に変わった。

「オチボ……さん。」

ぎこちない。

実にぎこちない。

しかも、少し照れくさそうである。

私は思わず吹き出しそうになった。

あれほど威勢よく怒鳴っていた男が、たった三歳年上と分かっただけで「さん付け」になってしまったのである。

やっぱり板前なんだ。

年長者には礼儀を尽くす。

その世界で長く生きてきた人なのだ。

怒りの奥にあったもの

ポテチは短気だった。

すぐ怒る。

口も悪い。

だが、根は案外まじめだった。

礼儀を大切にする。

上下関係を重んじる。

そして、一度認めた相手には、それなりの敬意を払う。

そのことが、「オチボさん」という一言で分かってしまった。

私は心の中で大笑いした。

そして少しだけ、ポテチが好きになった。

警備会社には、いろんな人がいる。

怖そうに見えて優しい人。

優しそうに見えて怖い人。

ポテチは、その前者だった。

怒鳴る。

照れる。

また怒鳴る。

そんな不器用な板前上がりの警備員も、この「人生の波止場」には、よく似合っていた。

-警備員ブルース日誌

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広告系プランナー、フリープランナーを経て店舗経営に挑戦するも失敗。
その後、地方ホテル支配人、配送ドライバー、飲食、施設警備、交通誘導など、さまざまな現場仕事を経験。
現在は警備の現場に立ちながら、警備員や現場仕事を人生の再起の入口として発信しています。
成功談だけではなく、落ちた側・働く側のリアルを知る者として、
再起を応援する「再起プランナー」として発信中。

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