警備員ブルース|人生の波止場から響くもの

警備員になろうかな、と思ったらまず読んでください。 実体験者が現場で出会った人間たちを、本音で語る警備員の実情。

警備員物語100

【警備員物語41】警備員と樹木――立っていると、木が仲間になる

投稿日:

警備員をやっていると、木を見るようになる。

いや、昔から木は見ていたはずなのだ。

道路にも木はある。

公園にもある。

学校にも神社にもある。

しかし、「そこに木がある」と、本当に意識するようになったのは、警備員になってからかもしれない。

なぜだろう。

たぶん、私も一日中立っているからだ。

警備員は木のそばで休む

昼休み。

近くに公園を見つける。

ベンチがある。

よし。

トイレもある。

さらによし。

そして夏場なら、もう一つ重要なものがある。

木陰だ。

真夏の警備員にとって、一本の大きな木はありがたい。

炎天下のアスファルトの上で何時間も立ったあと、その木の下に入る。

それだけで違う。

木は何も言わない。

「お疲れさまです」

とも言わない。

冷たい水をくれるわけでもない。

しかし、大きな枝を広げて、黙って影をつくっている。

ありがたいなぁ。

私はベンチに座り、汗を拭く。

上を見る。

葉っぱが風に揺れている。

サワサワ。

サワサワ。

鳥が来る。

枝に止まる。

また飛んでいく。

葉の隙間から太陽の光が落ちてくる。

風と、鳥と、木漏れ日。

警備員の休憩時間には、案外こういうものがある。

木も一日中、立っている

木を見上げていて、ふと思ったことがある。

こいつも、ずっと立っているんだな。

私が現場に来る前から立っている。

私が帰ったあとも立っている。

夜も立っている。

雨の日も立っている。

猛暑でも立っている。

雪が降っても立っている。

警備員なら、

「本日の作業終了です」

で帰れる。

木は帰らない。

交代要員もいない。

休憩もない。

考えてみれば、ものすごい勤務である。

「お前、大変だな」

心の中で言ってみる。

返事はない。

当たり前だ。

それでも長いこと一人で現場に立っていると、木が仲間のように思えてくることがある。

立っている者同士。

ただ、それだけなのだが。

風が吹けば、木だけが動く

警備の仕事には、何も起きない時間がある。

車も来ない。

歩行者も来ない。

工事車両も来ない。

ただ立っている。

そんなとき風が吹く。

木の枝が大きく揺れる。

ザワザワザワッ。

空気が動いたことが目に見える。

面白いものだ。

風そのものは見えない。

しかし木が揺れると、

「ああ、風が来た」

と分かる。

鳥が飛べば空を見る。

木が揺れれば風を見る。

葉の隙間から光が落ちれば太陽を見る。

警備員になって、そんなものを見る時間が増えた。

広告の仕事をしていたころ、こんなに木を見ただろうか。

時間に追われ、人に会い、企画を考え、電話をし、打ち合わせをする。

木なんか、そこにあっても見えていなかったような気がする。

不思議なものだ。

仕事が変わると、世界の見え方まで変わる。

原生林のような場所で、一人で警備した時

以前、郊外の現場で、樹木の伐採・伐倒作業の警備に入ったことがある。

街中の公園とはまったく違った。

木。

木。

木。

周囲は原生林のようだった。

その中で作業員たちが木を切る。

警備員は私一人。

一般の人が危険区域へ入らないように見張る。

作業員たちは森の奥で作業している。

少し離れれば、私は一人だ。

聞こえるのは鳥の声。

風。

葉の擦れる音。

そして、ときどき機械の音。

チェーンソーの音が響く。

静かな森の中では、その音が妙に大きく聞こえる。

一本の木が倒れる

伐倒というのは迫力がある。

何十年も、いや百年以上かものかも、そこに立ち続けた大きな木が切られる。

作業員が慎重に作業する。

やがて、

ミシッ。

音がする。

木が傾く。

そして――

ガラガラ、ドーン。

地面に倒れる。

空気が震えるような感じがする。

ナラ枯れになり、倒木の危険の木を除去する必要がある場合もある。

森林を管理するための伐採もある。

人間が暮らしていく以上、木を一本も切らずに生きることは難しい。

頭では分かっている。

それでも、

さっきまで立っていたものが横たわっている。

それを見ると、妙な気持ちになる。

ああ、倒れた。

それだけなのだが。

何十年も立っていたものが、数分で倒れる。

人間の人生、みたいだな、と思ったりもする。

『PERFECT DAYS』を思い出す

木を見ていると、ときどき映画『PERFECT DAYS』を思い出す。

役所広司が演じる主人公。

東京で淡々とトイレ掃除の仕事をし、一日一日を生きる男。

時より、彼は木を見上げる。

気に挨拶する。話しかけるような目線。

私はあの映画を見て、

木と友人になれる人間というのは、悪くないな

と思った。

何かを意図しているわけではなく、ただともに生きている。

毎日の仕事をして、一人で飯を食べ、音楽を聴き、木を見る。

一人なのに、世界から完全に切り離されてはいない。

あれは不思議な感覚だった。

警備員をしている自分にも、少し分かる。

一人で立っていても、本当に一人なのか

警備員は孤独な仕事だ。

一人配置なら、何時間もほとんど誰とも話さないことがある。

「俺、何やってるんだろう」

と思う日もある。

人間が恋しくなることもある。

家族のことを考えることもある。

過去を思い出すこともある。

しかし、そんなとき周囲を見れば、

木がある。

鳥がいる。

風が吹く。

雲が流れている。

もちろん木が人間の代わりになるわけではない。

話しかけても返事はない。

一緒に酒も飲めない。

それでも、

木が一本あるだけで、完全な無人ではないような気がする。

変な話だと思う人もいるだろうが。

でも、長時間一人で立ったことのある人なら、少し分かるかもしれない。

木は履歴書を書かない

木は、自分が何者なのか説明しない。

働いているわけでもなく、ただ立っている。

私との大きな違いだ。

何年生きた。

何を達成した。

どれだけ稼いだ。

どこの会社にいた。

そんなことを言わない。

ただ立っている。

大きな木なら、その幹に長い時間が刻まれている。

台風にも遭っただろう。

枝が折れたこともあるだろう。

虫に食われたこともあるだろう。

それでも、生きていれば新しい葉を出す。

人間も、そんなものでいいのかもしれない。

警備員になり、見えるようになったもの

私は警備員になって、

「落ちたなぁ」

と思ったことが何度もある。

もっと別の人生があったのではないか。

こんなところで誘導棒を振るために生きてきたのか。

そんなことを考える。

しかし、警備員になったから見えたものもある。

道路を歩く老人の「ありがとう」。

こちらをじっと見る子供。

公園の猫。

パンに寄ってくる鳩。

空を飛ぶカラス。

そして、

風に揺れる一本の木。

以前なら、全部通り過ぎていたかもしれない。

今は立ち止まって見る。

いや、仕事だから立ち止まっているのだが。

それでも、見る。

人生には、止まらないと見えないものがあるのかもしれない。

木がいれば、一人じゃない

休憩が終わる。

私はベンチから立ち上がる。

木を見上げる。

葉が揺れている。

「じゃあな」

心の中で言う。

木は何も言わない。

現場へ戻る。

誘導棒を持つ。

また立つ。

ふと道路の向こうを見る。

そこにも街路樹が一本立っている。

お前も立ってるな。

俺も立ってるよ。

警備員は、ときどき孤独だ。

でも、上を見れば鳥がいる。

風がある。

光がある。

横を見れば木が立っている。

そう考えると、

一人で立っていても、完全に一人ではない。

今日も木は立っている。

私も立っている。

どちらが先にこの場所を去るかといえば、たぶん私だ。

だから今日くらい、

一緒に立っていようじゃないか。

-警備員物語100

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再起プランナー。現在、現役警備員として働きながら、自らの再起を模索中!

元広告代理店勤め、フリーランスプランナーへ。店舗経営(DJバー)を経て、事業に失敗。

その後、地方ホテル支配人、配送、飲食、施設警備、交通誘導など、さまざまな現場仕事を経験する。

現在は交通誘導警備の現場に立ちながら、仕事の厳しさ、人間模様、収入、失敗談、そして現場で見つけた小さな希望を「警備員ブルース」に記録しています。

人生は、思いどおりにいかなくなってからも、続く。

失業した人、仕事に行くのがつらい人、60代からの働き方に迷っている人へ。成功者の上から目線では全くなく、現場で働く一人として、警備員という仕事の現実と、人生をもう一度立て直すためのヒントを届けます。

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