警備員ブルース|人生の波止場から響くもの

警備員になろうと思ったら、まず読んでください。 現場で出会った人間たち。実体験者が本音で語る警備員のリアル。

警備員100物語

【警備員物語40】警備員と鳥――空を飛べるやつは、いいなぁ

投稿日:

警備員をやっていると、自ずと鳥と付き合うことになる。

別に鳥が好きだからではない。

バードウォッチングが趣味というわけでもない。

ただ、一日中、外に立っているからだ。

道路に立つ。

誘導棒を振る。

車が来る。

歩行者が来る。

そして、ふと空を見上げる。

カラスが飛んでいる。

スズメがいる。

公園で休めば、鳩が寄ってくる。

考えてみれば、警備員ほど毎日鳥を見ている職業も、そんなに多くないのかもしれない。

誘導棒を振る警備員、その上をカラスが飛ぶ

道路で誘導棒を振っていると、カラスが飛んでいく。

一羽のときもあれば、何羽かで飛んでいることもある。

電線に並んで、こちらを見ているやつもいる。

何を考えているのか。

「今日もあのオッサン、棒振ってるな」

なんて思っているのだろうか。

こっちは朝から同じ場所に立っている。

右を確認。

左を確認。

歩行者を止める。

工事車両を入れる。

また右。

また左。

ところがカラスは、私の頭の上をスーッと越えていく。

道路も関係ない。

通行止めも関係ない。

迂回路も関係ない。

当然である。

空には通行止めがない。

いいなぁ。

お前ら。

スズメは警備員なんか気にしていない

住宅街の現場では、スズメを見ることもある。

チュンチュン。

電線から降りてきて、道路の端をちょこちょこ歩いている。

小さい。

カラスのような迫力はない。

こちらが近づけば、パッと飛んでいく。

そして少し離れた場所に着地する。

またちょこちょこ。

人間が工事をしていようが、警備員が立っていようが、スズメにはスズメの一日がある。

飯を探しているのか。

仲間と遊んでいるのか。

こちらには分からない。

でも、なんだか忙しそうだ。

鳥も鳥なりに、働いているのかもしれない。

公園で昼飯を食べると鳩が寄ってくる

そして警備員と鳥が最も近づくのが、公園である。

昼休み。

ベンチに座る。

パンを取り出す。

袋を開ける。

すると、どこからともなく鳩が来る。

一羽。

二羽。

ちょこちょこ。

こちらを見る。

いや、私を見ているのではない。

パンを見ている。

分かっている。

お前、これが欲しいんだろ。

しかし、近くには張り紙がある。

「鳥に餌をやらないでください」

分かっております。

鳩が増えれば糞で公園が汚れる。

近隣の迷惑にもなる。

餌を与えることで鳥が人間の食べ物に依存することだってある。

だから、やってはいけない。

頭では分かっている。

「ちょっとだけ」が困る

ところが、鳩はこちらを見ている。

いや。

パンを見ている。

一口食べる。

鳩が一歩近づく。

また食べる。

また近づく。

やめろ。

そんな目で見るな。

私は弱いんだ。

小さくパンをちぎる。

いや、ダメだ。

張り紙を見る。

鳩を見る。

周囲を見る。

誰も見ていない。

……ポイ。

やってしまった。

鳩が食べる。

なんだか嬉しい。

もう一羽来る。

おい。

仲間を呼ぶな。

もうやらないぞ。

すると、さらに二羽来る。

お前ら、情報が早すぎる。

もっとあげたくなる。

しかし我慢する。

我慢、お互いに。

私は残りのパンを食べる。

鳩も、

「ケチ」

とでも言いたそうに、その辺を歩いている。

本当は餌をやらないのが正解なのだ。

だから、これは良いことをした話ではない。

警備員のオッサンが誘惑に負けた、というだけの話である。

鳥を見ていると季節も分かる

外で仕事をしていると、鳥から季節を感じることもある。

春になると鳥の声が増える。

夏は朝から鳴いている。

秋になると、空を渡っていく鳥を見かけることがある。

冬の公園では、羽をふくらませたスズメが妙に丸く見える。

東京の街中でも、鳥はちゃんと季節の中で生きている。

警備員も同じだ。

夏は汗だく。

冬は震える。

春は少し楽になる。

秋になると、

「ああ、今年も暑い夏を乗り切ったな」

と思う。

鳥と警備員。

ずいぶん違う生き物だが、どちらも空の下で一日を過ごしている。

鳥には通行止めがない

猫を見たときにも思った。

自由でいいなぁ、と。

鳥を見ると、それをもっと強く感じる。

だって飛べるのだ。

こちらが、

「この先、通行止めです。迂回をお願いします」

と歩行者に頭を下げている、その真上を飛んでいく。

迂回?

知るか。

という感じである。

塀があっても関係ない。

川があっても関係ない。

道路工事も関係ない。

行きたい方向へ飛んでいく。

私は誘導棒を持ったまま、その姿を見上げる。

空を飛べるやつは、いいなぁ。

でも鳥にも鳥の一日がある

もっとも、本当に鳥が自由なのかは分からない。

食べ物を探さなければならない。

雨も降る。

真冬も外だ。

敵だっている。

子育てもする。

カラスなんかは、巣の近くを人間が通ると必死になって守ることがある。

鳥には鳥の事情がある。

人間から見れば自由に見えるだけなのかもしれない。

考えてみれば、人間だって同じだ。

スーツを着て会社へ向かう人を見て、

「いい仕事してそうだなぁ」

と思う。

向こうから見れば、

「外で働いて気楽そうだな」

と思われているかもしれない。

他人の空は、青く見える。

鳥の空は、もっと青く見える。

今日も空の下で誘導棒を振る

休憩終了。

ベンチから立ち上がる。

鳩もどこかへ行った。

現場へ戻る。

また誘導棒を持つ。

車を止める。

歩行者を通す。

「ありがとうございます」

頭を下げる。

そのとき、頭の上を一羽の鳥が横切る。

どこへ行くのか。

知らない。

でも、なんだかいい。

私は飛べない。

今日も決められた場所に立っている。

それでも、ときどき空を見ることくらいはできる。

警備員になってから、下ばかり見ていたような気がする。

仕事。

金。

将来。

失敗。

そんなことばかりだ。

だから、たまには上を見る。

鳥が飛んでいる。

いいなぁ。

そう呟いて、また誘導棒を振る。

鳥は鳥。

警備員は警備員。

それぞれの一日を、それぞれの空の下で生きている。

-警備員100物語

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広告系プランナー、フリープランナーを経て店舗経営に挑戦するも失敗。
その後、地方ホテル支配人、配送ドライバー、飲食、施設警備、交通誘導など、さまざまな現場仕事を経験。
現在は警備の現場に立ちながら、警備員や現場仕事を人生の再起の入口として発信しています。
成功談だけではなく、落ちた側・働く側のリアルを知る者として、
再起を応援する「再起プランナー」として発信中。

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