
警備という仕事は、経験という財産を運んでくる
「警備員なんて立っているだけ。」
そう思われることが多い。
私も警備員になるまでは、そう思っていた。
ところが、何年も現場へ通ってみると、まるで違うことに気づく。
警備員は、毎日旅をしている。
もちろん旅行ではない。
仕事である。
朝早く起き、知らない駅で降りる。
住宅街を歩き、工事現場へ向かう。
昼になれば近所の定食屋を見つける。
帰り道には神社がある。
商店街がある。
昔ながらの喫茶店がある。
その町の空気を吸う。
私は広告の仕事をしていた頃、企画とは「経験を編集すること」だと教えられた。
今思えば、警備員ほど経験を集められる仕事はない。
同じ現場は、ほとんどない
会社員なら毎日同じ会社へ行く。
ところが警備員は違う。
今日は世田谷。
明日は立川。
来週は豊洲。
その次は国分寺。
現場が変われば、街が変わる。
街が変われば、人も変わる。
監督も違う。
職人も違う。
歩行者も違う。
だから飽きない。
いや、疲れる。
でも経験は確実に増える。
神社があれば寄ってしまう、そんな私は、早続けて5年以上。
私は神社が好きだ。
現場の近くに神社があれば、帰りに寄る。
田無神社。
靖国神社。
名前も知らない町の小さな神社。
警備をしていなければ、一生行かなかった場所ばかりだ。
十円玉。
五円玉。
財布の中の小銭を入れて頭を下げる。
それだけでも心が少し落ち着く。
これも警備員という仕事がくれた旅である。
そんなことをしているうちに、移動を楽しむようになり5年はあっという間である。
経験は無料でもらえる
警備の給料は一時的には稼ぎやすいが、決して高いとはいえない。
しかし、一つだけ大きな財産がある。
それを一言でいうと「経験」である。
町を知る。
人を知る。
店を知る。
歴史を知る。
そして話のネタが増える。
「この間、○○へ行ったんですが……。」
そんな会話が自然にできるようになる。
人間は経験の数だけ、言葉が増える。
言葉が増える人は、人との出会いも増える。
それは、私が広告の仕事で学んだことでもある。
この現場の経験は、きっと次につながる、そして未来へ
警備員は、一生やる仕事じゃないな。
よく、そんな話を仲間とする。
私も、そう思って始めた。
しかし、この仕事で見た町。
出会った人。
聞いた話。
歩いた道。
それらは全部、自分の財産になる。
私は今、『警備員ブルース』を書いている。
これも警備員にならなければ、一行も書けなかった。
人生は無駄にならない。
遠回りも、寄り道も、漂流も、あとで全部つながる。
だから私は、今日も知らない駅へ降り立つ。
それは現場へ向かう一日であり、
人生という長い旅の、一ページでもあるのだから。
