警備員ブルース|人生の波止場から響くもの

警備員になろうと思ったら、まず読んでください。 現場で出会った人間たち。実体験者が本音で語る警備員のリアル。

警備員の100日物語

【警備員物語37】警備員と猫――自由なのは、どっちだ

投稿日:

公園のベンチで休んでいると、猫がいたりする。

どこから来たのか。まあ、ご近所かね、と眺める。

植え込みの下から、のそのそ出てきて、こちらをちらっと見る。

警備員の制服を着たオッサンが、弁当を食っている。

猫にしてみれば、それだけのことだろう。

こちらも、

「お、猫だ」

くらいのものだ。

ところが見ていると、これが飽きない。

警備員の休憩中、猫は勝手にやってくる

猫という生き物は、妙な格好をする。

ベンチの近くで突然座ったかと思えば、後ろ脚をピーンと上げて、自分のケツのあたりを一生懸命なめている。

すごい格好だ。

人間なら、公園であんな格好をしていたら大変なことになる。

しかし猫なら許される。

誰も怒らない。

本人、いや本猫も、まったく気にしていない。

ペロペロ。

ペロペロ。

毛づくろいが終わったら、

「じゃあな」

とでもいうように立ち上がって、植え込みの向こうへ消えていく。

なんだか、ほっこりするなぁ。

こちらは朝から誘導棒を振っている。

「歩行者通ります!」

「車両入ります!」

「少々お待ちください!」

何十回、何百回と同じような言葉を繰り返す。

そんな仕事の合間に猫を見ると、身体のどこかに入っていた力が少し抜ける。

猫は何もしてくれない。

励ましてもくれない。

人生相談にも乗ってくれない。

ただ、そこにいる。

それだけなのに、なぜかいい。

猫には隊長も現場監督もいない

猫は自由だ。

右へ行きたければ右へ行く。

左へ行きたければ左へ行く。

眠くなれば寝る。

腹が減れば、どこかへ歩いていく。

少なくとも、公園で猫を眺めている私にはそう見える。

猫には隊長がいない。

現場監督もいない。

管制から、

「明日の現場ですが……」

なんて電話も来ない。

上番時間もなければ、下番時間もない。

「明日は朝8時、○○駅集合です」

なんて指令も来ない。

電車を乗り継いで現場まで行く必要もない。

あっちへふらふら。

こっちへふらふら。

いいなぁ、お前。

自由だなぁ。

私はベンチに座って、そんなことを思う。

自由を求めて生きてきたはずだった、私。

考えてみれば、私はずっと自由を求めてきたような気がする。

会社員をやった。

広告の仕事をやった。

独立もし、自営で稼いた。

自分で仕事をつくろうとした。

飲食店もやった。

それが潰れてから、幾度となく転職もした。

うまくいったことも、まああれば、派手に失敗したこともある。

失敗の方が多いか。あああ。

そのたびに、

「もっと自由になりたい」

という気持ちが、どこかにあった。

会社に縛られたくない。

時間に縛られたくない。

嫌な人間に頭を下げたくない。

自分の好きな仕事をしたい。

自分の人生くらい、自分で決めたい。

そんなことを考えながら、ずいぶん遠くまで歩いてきた。

そして気がついたら――

警備員になっていた。

自由を求めた男が、動けない仕事をしている

警備員という仕事は、不思議なくらい「動けない」。

配置についたら、勝手にどこかへ行くことはできない。

喉が渇いたからといって、

「ちょっとコンビニ行ってきます」

とはいかない。

トイレに行きたくなっても、交代する人がいなければ我慢することもある。

暑い日。

日陰に入りたい。

でも、持ち場が日なたなら、そこに立つ。

寒い日。

風を避けたい。

でも、配置がそこなら、そこにいる。

目の前に公園があっても、勤務中ならベンチには座れない。

猫なら、とっくに木陰へ行っている。

私は行けずに、立ったまま

自由を求めて会社を離れ、独立し、転職を繰り返した人間が、

最後には、

決められた場所に立ち続ける仕事をしている。

人生というのは、ずいぶん皮肉なものだ。

「警備員に落ちた」と思っていた

正直に書けば、

「警備員に落ちた、落ちぶれた」

と思ったことがある。

いや、今でもそう感じる朝がある。

昔、自分が広告の仕事をしていたころ、将来自分が誘導棒を持って道路に立っているなんて想像もしなかった。

仕事をつくる側だった。

企画を考えた。

人と会った。

店までつくった。

ところが今は、工事車両が来るのを待っている。

「オーライ、オーライ」

と誘導する。

人生の階段を上っているつもりだったのに、どこかで踏み外したのか。

そんな気持ちになる日もある。

しかし、公園で猫を見ていると、少し考えが変わる。

猫は「成功」なんか考えていない

猫は、自分が成功しているかどうかなんて考えていないだろう。

少なくとも、私にはそう見える。

隣の猫より年収が低いとか。

同級生の猫はもう部長になったとか。

あいつは家を買ったとか。

自分には貯金がないとか。

そんなことで悩んでいる猫を、私は知らない。

猫は猫として、そこにいる。

日なたが気持ちよければ寝る。

かゆければ掻く。

ケツが気になれば、すごい格好をしてなめる。

誰が見ていようが、お構いなしだ。

その姿を見ていると、

「自由って何なんだろうな」と思う。

好き勝手に生きることなのか。

会社を辞めることなのか。

金を持つことなのか。

働かなくていいことなのか。

それとも、

他人と自分を比べず、自分の時間を自分のものとして感じられることなのか。

警備員は本当に不自由なのか

私は現場から自由に動けない。

決められた時間に起きる。

決められた場所へ行く。

決められた制服を着る。

そして決められた仕事をする。

確かに不自由だ。

しかし、それでも私の頭の中まで会社のものになったわけではない。

誘導棒を振りながら、文章を考えることがある。

現場で会った変な警備員のことを覚えておく。

通行人の言葉を覚えておく。

街の匂いを覚えておく。

そして家へ帰って、

このブログ「警備員ブルース」に書く。

そう考えると、私はまだ完全には捕まっていない。

身体は現場に立っている。

だが、頭の中では好きなところへ行ける。

青森へ行くこともできる。

昔の家へ戻ることもできる。

母親を思い出すこともできる。

これから書きたい物語のことを考えることもできる。

もしかすると、

自由というのは、職業だけで決まるものではないのかもしれない。

警備員と猫、自由なのはどっちだ

休憩終了の時間が近づく。

スマホを見る。

あと5分。

猫はまだいる。

今度は日なたに寝転がっている。

私は立ち上がる。

空になった弁当箱を片づける。

制服を整える。

誘導棒を持つ。

猫はこちらを見ない。

「俺、仕事に戻るわ」

もちろん返事はない。

私は公園を出る。

猫は残る。

自由なのは、どう考えても猫のように見える。

でも、本当にそうだろうか。

猫には猫の事情があるのかもしれない。

腹を空かせる日もあるだろう。

雨の日もある。

寒い夜もある。

自由には、自由の厳しさがある。

そして私には、不自由の中にも、まだ選べるものがある。

何を考えるか。

誰を大切にするか。

何を書くか。

これから、どこへ向かうか。

それくらいは、まだ自分で決められる。

現場へ戻りながら、私はもう一度猫を見る。

猫は大きなあくびをしていた。

ちくしょう。

やっぱり、お前のほうが自由に見える。

まあ、いい。

俺は俺で行く。

今日も誘導棒を振る。

そして、今日見たお前のことを文章にする。

それが今のところ、警備員である私に残された自由なのだから。

-警備員の100日物語

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広告系プランナー、フリープランナーを経て店舗経営に挑戦するも失敗。
その後、地方ホテル支配人、配送ドライバー、飲食、施設警備、交通誘導など、さまざまな現場仕事を経験。
現在は警備の現場に立ちながら、警備員や現場仕事を人生の再起の入口として発信しています。
成功談だけではなく、落ちた側・働く側のリアルを知る者として、
再起を応援する「再起プランナー」として発信中。

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