警備員ブルース|人生の波止場から響くもの

警備員になろうかな、と思ったらまず読んでください。 実体験者が現場で出会った人間たちを、本音で語る警備員の実情。

警備員物語100

【警備員物語20】ミスター完璧に出会う。

投稿日:

警備員をやっていると、いろいろな人に出会う。

怒鳴る人。

何もしない人。

マウントを取る人。

おしゃべりな人。

そして、ごくまれに、「この人は本物だ」と思わせる人に出会う。

私は、その人を勝手に「ミスター完璧」と呼んでいる。

英語の「ミスターパーフェクト」ではない。

なぜか、日本語で「ミスター完璧」と呼びたくなる人なのだ。

その日、私はある工事現場に配置された。

現場へ着くと、隊長が朝礼を始めた。

最初の一言で、「あれ?」と思った。

話し方が違う。

ゆっくり。

落ち着いている。

声を張り上げない。

しかし、よく通る。

聞いている全員が自然に耳を傾けてしまう。

命令口調ではない。

「お願いします。」

「ありがとうございます。」

「気を付けていきましょう。」

言葉が柔らかい。

ところが、不思議なことに現場はピリッと締まる。

これが本当のリーダーなのかと思った。

現場が始まると、その凄さはさらに分かった。

カラーコーン一本置くにも理由がある。

コーンバー一本掛けるにも意味がある。

歩行者の流れ。

自転車の動き。

大型車が曲がる角度。

工事作業員の作業スペース。

すべてを見ながら、配置を決めていく。

まるで将棋を指しているようだった。

しかも、自分だけが動くのではない。

隊員一人ひとりに、

「こちらをお願いできますか。」

「少し前へ出てもらえますか。」

「ありがとうございます。」

その一言一言が実に気持ちいい。

命令されている感じがしない。

自然と「はい。」と言いたくなる。

私は広告代理店で十年以上働いた。

営業もいた。

管理職もいた。

店を経営したこともある。

サービス業にも長く関わってきた。

それでも、この隊長ほど人への接し方が上手な人は、そう多くなかった。

何より驚いたのは、一般の人への対応だった。

工事現場では、

「通れないの?」

「急いでるんだけど。」

「何で止めるんだ。」

そんな言葉を毎日のように受ける。

それでも隊長は表情を変えない。

笑顔を崩さない。

「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」

「あと30秒ほどでご案内できます。」

「ありがとうございます。」

丁寧である。

しかし弱々しくない。

優しい。

しかし曖昧でもない。

言うべきことは、きちんと伝える。

だから相手も納得してしまう。

私はその姿を見ながら思った。

これはただの警備員ではない。

一流のサービスマンだ。

ホテルでも。

百貨店でも。

航空会社でも。

高級レストランでも。

どこへ行っても通用する人だろう。

いや、むしろそういう仕事より、この工事現場だからこそ、この人の価値が際立って見えた。

土埃が舞う。

重機が動く。

クラクションが鳴る。

暑さで誰もがイライラしている。

そんな荒々しい現場の空気を、この人はたった一人で和らげてしまう。

私は初めて見た。

警備という仕事にも、ここまで極めた人がいることを。

技術だけではない。

知識だけでもない。

動作。

立ち姿。

歩き方。

話し方。

目線。

笑顔。

表情。

気配り。

すべてが自然だった。

決して格好をつけているわけではない。

だから余計に美しかった。

私は思う。

世の中には、どんな仕事にも卓越した人がいる。

華やかな職業だけではない。

スポットライトを浴びる仕事だけでもない。

誰も見ていない場所で、一流の仕事をしている人は確かに存在する。

警備という仕事を始めてから、私は「人生の吹きだまり」のような現場を何度も見てきた。

だからこそ、このミスター完璧との出会いは衝撃だった。

「こんな人がいるんだ。」

素直にそう思った。

もちろん、私は警備を一生続けたいとは思っていない。

できれば、別の仕事へ進みたい。

文章を書き、企画を考え、自分の人生をもう一度動かしたい。

その気持ちは変わらない。

それでも、この人を見た日だけは少しだけ思った。

「もう少し頑張ってみるか。」

そんな気持ちにさせる人は、人生でそう何人もいるものではない。

私はその日、一人の警備員ではなく、一人の職業人に出会った。

だから今日も私は、心の中でこう呼んでいる。

「ミスター完璧」。

この名前以上に、あの人にふさわしい呼び名を、私はまだ知らない。

-警備員物語100

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再起プランナー。現在、現役警備員として働きながら、自らの再起を模索中!

元広告代理店勤め、フリーランスプランナーへ。店舗経営(DJバー)を経て、事業に失敗。

その後、地方ホテル支配人、配送、飲食、施設警備、交通誘導など、さまざまな現場仕事を経験する。

現在は交通誘導警備の現場に立ちながら、仕事の厳しさ、人間模様、収入、失敗談、そして現場で見つけた小さな希望を「警備員ブルース」に記録しています。

人生は、思いどおりにいかなくなってからも、続く。

失業した人、仕事に行くのがつらい人、60代からの働き方に迷っている人へ。成功者の上から目線では全くなく、現場で働く一人として、警備員という仕事の現実と、人生をもう一度立て直すためのヒントを届けます。

失敗しても、人生はそこで終わらない。
現場仕事を「人生の再起の入口」に変える、再起プランナーとして発信しています。

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