
警備員になって数か月が過ぎた。
最初は現場へ行くたびに緊張していたが、少しずつ顔見知りが増えてきた。
警備会社というのは不思議な世界で、昨日まで知らなかった人と今日一日だけコンビを組み、また何か月も会わないこともある。
そんな中で、ある日、私は「あ、この人は青森だ」と思った。
まだ出身地を聞いてもいない。
しかし、言葉のイントネーションで分かった。
どこか吉幾三を思わせるような、あの独特の響き。
「もしかして青森ですか?」
そう聞くと、相手は笑った。
「そうだ。」
それだけで、距離が一気に縮まった。
私は青森県南部地方の出身。
相手は二人いて、一人は同じ南部。
もう一人は津軽地方だった。
同じ青森県でも、南部と津軽はずいぶん違う。
言葉も違う。
気質も違う。
県外の人から見れば同じ青森弁でも、現地へ帰れば、お互い何を言っているのか分からないことさえある。
それでも、「青森」というだけで妙に安心する。
ふるさとの匂いがする。
警備の仕事では、現場では標準語を使う。
そして本当の会話は、誘導棒と目線で行う。
片側交互通行では、相手は何十メートルも先にいる。
大声で話すことなどできない。
誘導棒を少し振る。
目を合わせる。
一瞬うなずく。
それだけで、「今だ」「止める」「流す」が伝わる。
警備とは、無言のコミュニケーションの仕事でもある。
だからこそ、相手を知ることは意外に大切だ。
休憩時間になると、お互い自然に聞く。
「どこの出身?」
「前は何やってたの?」
「趣味は?」
そんな何気ない会話の中から共通点を探していく。
同じ県。
同じ趣味。
同じ年代。
同じ子育て経験。
好きな野球チーム。
好きな酒。
たった一つでも共通項が見つかると、人は急に心を開く。
これは心理学でも「類似性の法則」と呼ばれる。
人は、自分と似た部分を持つ相手に安心感を覚え、信頼しやすくなる。
警備では、この安心感が仕事そのものに影響する。
「この人なら任せられる。」
そう思えれば、片側交互通行も息が合う。
車の流し方も自然に一致する。
危険を察知したときも、お互いが相手の動きを予測できる。
つまり、安全性が高くなるのである。
逆に、お互いをまったく理解しないままでは、小さなズレが事故につながることもある。
私は警備を始めるまで、これほど人との相性が仕事に影響するとは思っていなかった。
そういえば以前、私は「この人も青森かな」と勝手に思った女性隊員がいた。
以前紹介した「マウント女王」である。
顔立ちや雰囲気がどこか北国っぽかった。
ところが聞いてみると、まったく違った。
人は時々、勝手な思い込みをする。
だからこそ、実際に話してみることが大事なのだ。
共通項は、探せば必ずある。
出身地でもいい。
食べ物でもいい。
音楽でもいい。
子どもの頃の遊びでもいい。
その一本の細い糸が、人と人を結び、信頼を育てる。
警備員という仕事は、人を止めたり、車を誘導したりする仕事だと思われがちだ。
しかし本当は、人と人との信頼で成り立っている仕事なのだ。
私は青森の仲間たちと出会って、それを改めて教えられた。
誘導棒一本で交わす無言の会話。
そして、故郷という共通項。
どちらも、現場を安全にする大切な力なのである。
