
「警備員になったら人生終わりだよ」
そんな言葉を聞いたことがある。
警備員をはじめる当初、その言葉が頭の中をぐるぐる回っていた。
警備員以外、仕事がなかった。
50代終わりの頃、地方の宿泊施設の支配人を辞めざるを得ない状況になり、再就職先を探したが、なかなか見つからない。
配達ドライバー、テレアポ、工事現場の代理人見習い、ラーメン屋見習い。どれめ合わずに続かない。
最後の砦が、警備員だった。
20代、30代、広告代理店にいた頃は、自分が警備員になるとは思わなかった。
まあ、バブル期だから、給料そんな高いほうでもなかったけど、
そこそこ悪くなかった。
イベント、撮影、出張、経費は使い放題だったからね。
クライアントさま、様!!
バーを経営していた頃も思わなかった。
イベントを企画していた頃も思わなかった。
イベンターになって「小さいロックフェス」をやった時も思わなかった。
よもや警備員なんてさ。。。
ところが人生というのは、思いもよらない方向へ曲がる。
気がつけば六十を過ぎ、財布の中身を気にしながらコンビニへ行き、家賃の支払い日を計算している。
人生というのは、いつからこうなったのだろう。
もちろん、自分の責任だ。
誰のせいでもない。
店をやったのも自分だ。
失敗したのも自分だ。
無茶な挑戦を繰り返したのも自分だ。
だから文句は言えない。
だが、それにしても。
まさか、この歳になって職探しをするとは思わなかった。
求人サイトを開く。
何度も開く。
事務職。
経験者優遇。
営業職。
年齢制限。
管理職経験者歓迎。
パソコンスキル必須。
画面をスクロールするたび、自分の居場所が消えていくような気がした。
そして最後の方に現れる。
警備員募集。
交通誘導スタッフ。
未経験歓迎。
シニア活躍中。
週一日から可。
年齢不問。
なぜだろう。
そこだけが妙に優しい。
優しいというより、他に行く場所がない者を受け入れているようにも見えた。
私は画面を見つめた。
警備員。
本当にやるのだろうか、私は。
交差点に立って棒を振る。
工事現場で頭を下げる。
雨の日も風の日も外に立つ。
そんな自分の姿を想像した。
正直に言う。
嫌だった。
怖かった。
恥ずかしかった。
情けなかった。
人生の敗北者になったような気がした。
同級生たちはどうしているだろう。
定年まで勤め上げた者もいるだろう。
会社役員になった者もいるだろう。
孫と遊んでいる者もいるだろう。
私は何をやっているのだ。
六十を過ぎて、パソコンの前で警備員募集の画面を見つめている。
情けなくて笑えてきた。
だが、その時だった。
ふと思った。
本当に人生は終わりなのか。
終わったのは、昔の自分ではないのか。
広告マンだった自分。
店主だった自分。
イベントプロデューサーだった自分。
それは終わったかもしれない。
だが、人間そのものが終わったわけではない。
そう考えると、少しだけ景色が変わった。
警備員になることは敗北なのか。
それとも、新しい人生の入口なのか。
その答えはまだ分からない。
ただ一つ分かっていることがある。
何もしなければ、何も変わらないということだ。
求人画面の応募ボタンを見つめる。
指が止まる。
何度も止まる。
そして私は、小さくため息をついた。
人生の地平線は、歩き出した者にしか見えない。
昔、そう思っていた。
ならば今も同じだろう。
私は震える指で応募ボタンを押した。
警備員になったら人生は終わりなのか。
その答えを確かめるために。つづく。
仕事がない!そんなあなたが活躍する仕事、それが警備員!
ともあれ、つづく!!