警備員ブルース|人生の波止場から響くもの

警備員になろうと思ったら、まず読んでください。 現場で出会った人間たち。実体験者が本音で語る警備員のリアル。

警備員物語100

【警備員物語44】警備員を続けてよかったことベスト10――嫌いな仕事が教えてくれたこと

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最初に言っておこう。

私は、警備員という仕事が好きなわけではない。

暑い。

寒い。

雨に濡れる。

現場は遠い。

朝は早い。

一日立ちっぱなしになることもある。

何度、

「もう警備なんか辞めたい」

と思ったかわからない。

今だって、できることなら別の仕事をしたいと思っている。

では、警備員をやったことを後悔しているか。

これが、そう簡単でもないのである。

長く現場に立っているうちに、私は思いがけないものを拾ってきた。

金でも資格でもない。

人間。

街。

空。

子供。

老人。

働くということ。

安全ということ。

そして何より、年齢を重ねるまでに自分の中に蓄積していた経験や知識が、思いがけないところで役に立つことに気づいた。

若いころにはわからなかったことが、警備員になってから見えるようになった。

今回は、そんな私なりの

「警備員を続けてよかったことベスト10」

を書いてみたい。

ただし、警備員を礼賛するつもりはない。

嫌なものは嫌なのだ。

それでも残ったものが、確かにある。

では、ベスト10をあげてゆきます!

第10位 とりあえず、働く場所があった

仕事がなくなったとき、これは大きかった。

年齢。

職歴。

ブランク。

世の中には、それだけで入口を閉ざされる仕事がたくさんある。

しかし警備は比較的、年齢を重ねてからでも入ることができる。

研修を受け、制服を着れば、とりあえず現場に立てる。

格好いい再出発ではなかった。

むしろ、

「俺はここまで来たのか」

と思ったこともある。

それでも、仕事がゼロなのと、一日働けば一日分の金になるのとではまったく違う。

人生には、とにかく足場が必要なときがある。

警備は私にとって、その足場の一つだった。

第9位 知らない東京をずいぶん歩いた

警備をしていると、とにかくいろいろな場所へ飛ばされる。

「こんなところ、一生来なかっただろうな」

という住宅街。

再開発中の街。

昔ながらの商店街。

巨大なビルの谷間。

細い路地。

公園。

駅前。

同じ東京でも、場所が変われば人の歩き方まで違う。

朝、現場へ向かう。

昼休みにコンビニを探す。

仕事が終わって駅まで歩く。

そうやって私は、仕事でなければ知らなかった東京をずいぶん見てきた。

警備員は、ある意味では街の定点観測者なのかもしれない。

第8位 社会は「名もない仕事」でできていると知った

道路は、最初からそこにあるわけではない。

電気も勝手に届いているわけではない。

水道も通信も建物も、誰かが作り、誰かが直している。

道路を掘る人。

電柱に上る人。

資材を運ぶ人。

重機を操作する人。

工程を管理する人。

そして、その周囲で事故が起きないように立つ人。

広告の仕事をしていたころとは、まったく違う社会の断面がそこにあった。

街という巨大なものは、名前も知られない大勢の人間の仕事で動いている。

これは警備員にならなければ、私はここまで実感しなかったと思う。

第7位 「安全」という言葉が、ただの標語ではなくなった

工事現場には、

「安全第一」

という文字が、あちこちにある。

昔なら、ただの標語に見えたかもしれない。

しかし現場に立つと、この四文字の意味が変わってくる。

車が数十センチ横を通る。

重機が動く。

トラックがバックしてくる。

頭上では作業員が仕事をしている。

子供が突然走ってくる。

スマホを見たまま工事現場へ近づく人もいる。

事故というのは、ドラマのように前触れをつけてやって来るわけではない。

ほんの数秒。

ほんの一歩。

ほんの一瞬の見落とし。

それで起こる。

だから、一日の最後に、

「今日も何もなかった」

ということが、実はものすごく大事なのだ。

何も起きなかった。

誰もケガをしなかった。

みんな家に帰った。

それが警備員の成果なのだと、私は現場で知った。

第6位 子供、老人、猫を見るようになった

これは不思議な変化だった。

警備員は、一か所に長く立っている。

すると、それまで通り過ぎていたものが見えてくる。

保育園の子供たちが歩いてくる。

「おはようございまーす!」

と声をかけてくる。

老人が通り過ぎながら、

「ご苦労さま」

と言ってくれる。

公園で休憩していると、猫がこちらを見る。

あいつは好き勝手に歩いている。

こっちは制服を着て、時間に縛られている。

自由なのはどっちなんだ。

そんなことまで考える。

若いころなら、気にも留めなかったかもしれない。

しかし年を取った。

そして警備員になって、街角に長時間立つようになった。

だから見えるようになったものがある。

子供を見れば、これから先の時間を思う。

老人を見れば、自分のこれからを思う。

猫を見れば、自由について考える。

警備員になって、私は以前より街の小さな命を見るようになった。

第5位 人間観察の宝庫だった

警備現場には、本当にいろいろな人間が流れてくる。

無口な職人。

やたら明るい職人。

完璧な隊長。

おしゃべりな警備員。

昔は別の仕事をしていた人。

人生の途中で何かがあった人。

怒る通行人。

頭を下げてくれる通行人。

こちらが恐縮するほど、

「ありがとうございます」

と言ってくれる老人。

人間というものは、面白い。

そして、ときどき悲しい。

私は広告の仕事もしたし、店もやった。

いろいろな人間を見てきたつもりだった。

それでも警備の現場には、また別の人間社会があった。

気がつけば、その人たちのことを書き始めていた。

それが『警備員ブルース』になった。

第4位 自分には、まだ使えるものがあるとわかった

警備員になったころ、

「これまでの経験なんて、もう何の役にも立たないのかな」

と思うことがあった。

しかし、そうでもなかった。

人への声のかけ方。

相手の表情を見ること。

状況を判断すること。

初対面の人との距離を測ること。

トラブルになりそうな空気を察すること。

短い言葉で相手に伝えること。

考えてみれば、これは以前の仕事でも使ってきた能力だった。

職種は変わっても、人間を相手にする以上、過去の経験が全部ゼロになるわけではない。

むしろ年齢を重ねたからこそ、

「あ、この人にはこう言ったほうがいい」

とわかることもある。

警備員になったことで逆に、

自分が何十年もかけて身につけてきたものを再確認した。

これは意外だった。

第3位 空を見るようになった

警備員は外にいる。

嫌になるほど外にいる。

夏の太陽。

冬の風。

雨。

雲。

夕焼け。

そして、ときどき驚くほど美しい空。

ある日、工事現場の上に広がった空を見ていて思った。

下では道路を掘っている。

トラックがいる。

カラーコーンが並んでいる。

警備員が立っている。

決して美しい場所ではない。

なのに、その上に広がる空だけが、まるで巨大な映画のスクリーンのように見えた。

警備員にならなければ、その時間、その場所で、その空を見ていなかった。

人生とは妙なものである。

嫌な仕事の最中に、美しいものを見つけることがある。

第2位 「人の役に立つ」の意味が少し変わった

昔は、大きな仕事をすることが価値だと思っていたところがある。

企画を成功させる。

売上を作る。

店を繁盛させる。

目に見える成果を出す。

しかし警備の成果は、ほとんど見えない。

老人が安全に通れた。

子供が工事現場へ入らなかった。

自転車とトラックがぶつからなかった。

誰かが、

「ありがとう」

と言って通り過ぎた。

それだけである。

しかし年を取ったせいだろうか。

最近は、それも仕事なんだと思う。

世界を変えなくてもいい。

目の前の一人を安全に通す。

それだけでも、人の役には立っている。

若いころの私には、たぶんわからなかった。

第1位 人生は、どんな場所からでも「材料」になると知った

これが一番大きい。

私は警備員になりたくて警備員になったわけではない。

むしろ、

「なんで俺がこんなところにいるんだ」

と思ったことのほうが多かった。

これまでやってきたことは何だったのか。

広告の仕事。

企画。

店。

失敗。

いろいろな人との出会いと別れ。

それらからずいぶん遠いところまで来てしまったように感じていた。

しかし、警備員として道路に立ちながら、あるとき気づいた。

全部つながっている。

昔の仕事で覚えたこと。

人を見る目。

失敗した経験。

年を取ったこと。

寂しさ。

後悔。

そして今、警備員として見ている風景。

全部、書くための材料になる。

そう思ったら、少しだけ景色が変わった。

警備員という仕事が好きになったわけではない。

今だって辞めたいと思う。

でも、

警備員になった自分まで、人生から捨てなくていい。

そう思えるようになった。

そして私は、警備員について書き始めた。

『警備員ブルース』である。

嫌いな仕事から、拾えるものもある

「警備員を続けてよかったですか?」

そう聞かれたら、私は少し困る。

簡単に、

「はい、最高です!」

とは言えない。

きつかった。

惨めに思ったこともある。

辞めたい日は何度もあった。

それでも長く続けたから、見えたものがある。

街。

人間。

子供。

老人。

猫。

空。

安全。

働くということ。

そして、自分自身。

年齢を重ねるということは、失うことばかりではないのかもしれない。

経験したこと。

失敗したこと。

覚えてきたこと。

人と付き合ってきたこと。

それらは目に見えないけれど、自分の中に残っている。

警備員になって私は、それを思いがけない形で再確認した。

だから今なら、こう言える。

警備員という仕事が好きなわけではない。

でも、警備員になった人生まで嫌いになる必要はない。

今日もまた、どこかの現場で一日が始まる。

誘導棒を持って立ちながら、私は人を見て、街を見て、空を見る。

そして、ときどき思う。

これもいつか、文章になる。

そして、ここで書いてる。

-警備員物語100

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広告系プランナー、フリープランナーを経て店舗経営に挑戦するも失敗。
その後、地方ホテル支配人、配送ドライバー、飲食、施設警備、交通誘導など、さまざまな現場仕事を経験。
現在は警備の現場に立ちながら、警備員や現場仕事を人生の再起の入口として発信しています。
成功談だけではなく、落ちた側・働く側のリアルを知る者として、
再起を応援する「再起プランナー」として発信中。

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