警備員ブルース|人生の波止場から響くもの

警備員になろうかな、と思ったらまず読んでください。 実体験者が現場で出会った人間たちを、本音で語る警備員の実情。

警備員物語100

【警備員物語84】何もない一日――警備員は、ただ立っているだけなのか

投稿日:

よく行く電気工事の現場だった。

初めての場所ではない。

現場に着いて、作業員と顔を合わせる。

今日の工事内容を確認する。

そして私は、いつもの位置につく。

通行止めの場所である。

誘導棒を持って立つ。

さて。

今日も警備員の一日が始まった。

ところが、何も起きない。

本当に、何も起きないのである。

通行止めなのに、そもそも車が来ない

通行止めの警備というと、何やら忙しそうに聞こえる。

侵入しようとする車を止め、

「申し訳ありません、工事中です」

と説明し、

迂回路を案内する。

場合によっては、

「そこに家があるんだよ!」

と怒られたりする。

警備員と運転手との、道路をめぐる攻防戦である。

ところが今日の現場は違う。

車が来ない。

いや、たまには来る。

しかし通行止めの看板を見て、

「あ、ダメなのね」

という感じで曲がっていく。

素直である。

実にありがたい。

警備員の出番がない。

私は誘導棒を持ったまま、

立っている。

警備員の仕事は「お気をつけて」の一言だけ

歩行者が来る。

工事箇所を確認する。

危険がなければ、

「どうぞ」

と通す。

高齢の人が来れば少し注意する。

自転車が来る。

作業員や工事車両の動きを見る。

問題なければ、

「お気をつけてどうぞ」

と声をかける。

自転車は行ってしまう。

また静かになる。

そして私は、

立っている。

しばらくすると、また人が来る。

「お気をつけて」

人が行く。

立つ。

自転車。

「お気をつけて」

立つ。

たまに車。

立つ。

昼になる。

飯を食う。

午後。

また、

立つ。

これを仕事と呼んでいいのだろうか。

時々、私自身が疑問になる。

「警備員って、立ってるだけでしょ?」

警備員をやったことのない人から見れば、そう見えると思う。

実際、今日の私を一時間くらい定点カメラで撮影して早送りしたら、ほとんど動いていないかもしれない。

電柱は立っている。

標識も立っている。

私も立っている。

三者の違いは何か。

私だけ給料をもらっている。

申し訳ないような気もする。

しかし、よく考えると少し違う。

私は何もしていないように見えて、

車を見ている。

歩行者を見ている。

自転車を見ている。

工事車両を見ている。

作業員の動きを見ている。

音も聞いている。

何かが起きれば、動く。

つまり、

何もしないために、何かが起きないかを見続けている。

これが意外と疲れる。

忙しい警備より「何もない警備」のほうが長く感じる

車が次々と来る現場は忙しい。

片側交互通行などでは、ぼんやりしている暇はない。

反対側の警備員と無線を取り合い、車列を確認して、止める、流すを繰り返す。

気がつけば一時間経っている。

ところが何もない現場は違う。

時計を見る。

10時10分。

ずいぶん経った気がする。

もう一度見る。

10時13分。

三分しか経っていない。

時計が壊れているのではないかと思う。

さらに待つ。

今度こそ相当経っただろう。

10時17分。

時計は正常である。

壊れているのは、こちらの時間感覚だった。

警備員という仕事には、

「忙しいから疲れる」

とは別に、

「何も起きないから疲れる」

という疲労がある。

ただ立っている。

しかし、その場を離れるわけにはいかない。

これも仕事なのである。

では今日、私は何をしたのだろう

夕方になる。

工事が終わる。

規制を解除する。

作業員が片づけを始める。

私も誘導棒をしまう。

今日一日を振り返る。

事故。

なし。

車とのトラブル。

なし。

歩行者とのトラブル。

なし。

自転車との接触。

なし。

苦情。

なし。

大事件。

もちろん、なし。

では、

私は今日、何をしたのだろう。

何時間も立っていた。

「お気をつけて」と何度か言った。

それだけである。

何かを作ったわけではない。

電気工事をしたのは作業員である。

道路を掘ったのも私ではない。

ケーブルを扱ったのも私ではない。

完成したものを見ても、

「ここを私が作りました」

とは言えない。

警備員の仕事は、形に残らない。

「何も起きなかった」が警備員の成果なのかもしれない

しかし、ここで妙なことに気づく。

警備員の仕事というのは、

何かが起きたら失敗する仕事

なのかもしれない。

事故が起きた。

人がけがをした。

車が工事区域へ突っ込んだ。

作業員と歩行者が接触した。

そうなって初めて、

「警備はどうなっていたんだ」

という話になる。

逆に、

何も起きなければ、

誰も警備員のことなど考えない。

歩行者は普通に歩いていく。

自転車は普通に通り過ぎる。

作業員は普通に仕事をして帰る。

それでいい。

むしろ、

それが一番いい。

今日一日、

何も起きなかった。

それは「何もしなかった」のではなく、

「何も起きずに終わった」

という結果なのかもしれない。

64歳になると「何もない一日」の意味が少し変わる

若いころの私は、何かが起きることを求めていたような気がする。

仕事でもそうだった。

企画をする。

人を動かす。

店をやる。

イベントをやる。

面白いことをやりたい。

大きなことをやりたい。

何も起きない一日は、退屈だった。

しかし64歳になった今は、

少しだけ違う。

同じ年代の友人が亡くなる。

身体のことを考える。

これからの仕事を考える。

65歳からどう生きるかを考える。

そうなると、

何も起きなかった一日も、そんなに悪くない。

朝、起きた。

仕事へ行った。

立っていた。

昼飯を食った。

「お気をつけて」と言った。

事故はなかった。

仕事が終わった。

家へ帰った。

そして、

今日も生きている。

考えてみれば、それだけで一日は成立している。

それでも「ただ立っているだけ」で人生を終わらせたくはない

ただし、ここで話をきれいに終わらせるつもりもない。

「平凡な一日こそ素晴らしい」

と言ってしまえば、それらしいエッセイになる。

しかし私は、

やっぱり、このままでは嫌なのである。

警備員として何も起きない一日は、それでいい。

むしろ、それがいい。

だが、

人生まで何も起きないままでいいのか。

これは別の話だ。

前回、私は警備員を「準備期間」と考えてみた。

今の仕事で生活をつなぎながら、次の仕事を探す。

書く。

小さな商売も考える。

夢や目標を決める。

次の人生を準備する。

今日のような静かな現場に立っていると、そのことを余計に考える。

車が来ない。

人も来ない。

私は立っている。

時間だけが過ぎる。

そしてふと思う。

この時間を、ただ待つだけの時間にしてはいけない。

警備員は立っている。でも、頭の中まで立ち止まる必要はない

身体は現場に置いておく。

勝手にどこかへ行ってはいけない。

当然である。

しかし頭の中まで、その場所に縛りつける必要はない。

これから何をする。

何を書こう。

どんな仕事ならできる。

昔の経験をどう使える。

65歳から何を始める。

そんなことを考える。

もちろん、周囲の安全確認が最優先である。

考え事に夢中になって事故を起こしたら、

「警備員ブルースの構想を練っていました」

では済まない。

それでは本末転倒である。

だから、

車を見る。

歩行者を見る。

自転車を見る。

そして何も来ない時間に、

少しだけ自分の先を見る。

今日の成果――何もなし

工事が終わった。

私は現場を離れる。

今日も特別なことは起きなかった。

ブログの記事になるような事件もなかった。

面白い人にも会わなかった。

怒鳴られもしなかった。

感動的な出来事もなかった。

何もなかった。

でも、

歩行者は無事に通った。

自転車も無事に通った。

作業員も仕事を終えた。

私も仕事を終えた。

そして全員、それぞれの場所へ帰っていく。

だったら今日の警備は、

これでいい。

私は誘導棒をしまう。

ヘルメットを脱ぐ。

本日の成果。

何もなし。

警備員としては、

たぶん満点である。

そして私の人生のほうは――

こちらは、

何か起こしたい。

64歳。

警備員。

今日も一日、ただ立っていた。

しかし、

人生まで立ち止まったつもりはない。

この個性は気に入りましたか?

-警備員物語100

執筆者:

関連記事

【警備員物語50】俺は警備員を辞める。そのために、今日から始める。警備員をはやく辞めたい人へ|限界を感じたときに考える次の仕事と再起の道

このブログも50話まで来た。100話を目指しているので折り返し地点だ。 ずいぶん書いた。 警備員になった人。 辞めていった人。 変な隊長。すごい隊長。 職人。 通行人。 老人。 子供。 猫。 公園。 …

AI時代に警備の仕事はなくなるのか?

ロボットやAIが急速に進化するなか、「警備の仕事は消えるのでは」と不安に思う人も多いでしょう。結論から言えば、完全になくなる可能性は当面低いものの、仕事内容と必要スキルは確実に変わります。ここでは、A …

【警備員物語22】稼ぐ隊長、今日も行くぜ!!

警備員の世界には、実によく働く人がいる。 朝は警備。 夜は別の仕事。 休日も働く。 そんなダブルワーカー、いや、トリプルワーカーさえ珍しくない。 私が出会った「稼ぐ隊長」も、その一人だった。 その隊長 …

未経験でも安心!警備員求人の実態とおすすめ理由

警備員の仕事に興味はあるけれど、「体力的に大変そう」「未経験でもできるの?」と不安に感じていませんか。実は、警備業界は未経験・中高年・シニア世代の採用が非常に活発で、安定した収入を得られる仕事として注 …

警備員の現場でわかる街の性格|東京の土地ごとに違う空気と人間模様

工事現場の警備員をやっていると、都内のいろいろな街に行く。杉並、練馬、世田谷、板橋、渋谷、新宿、北区――。 同じ交通誘導の仕事でも、立つ場所が違えば、空気が違う。通る人の歩く速さ、声のかけ方、クレーム …

再起プランナー。現在、現役警備員として働きながら、自らの再起を模索中!

元広告代理店勤め、フリーランスプランナーへ。店舗経営(DJバー)を経て、事業に失敗。

その後、地方ホテル支配人、配送、飲食、施設警備、交通誘導など、さまざまな現場仕事を経験する。

現在は交通誘導警備の現場に立ちながら、仕事の厳しさ、人間模様、収入、失敗談、そして現場で見つけた小さな希望を「警備員ブルース」に記録しています。

人生は、思いどおりにいかなくなってからも、続く。

失業した人、仕事に行くのがつらい人、60代からの働き方に迷っている人へ。成功者の上から目線では全くなく、現場で働く一人として、警備員という仕事の現実と、人生をもう一度立て直すためのヒントを届けます。

失敗しても、人生はそこで終わらない。
現場仕事を「人生の再起の入口」に変える、再起プランナーとして発信しています。

最新の投稿

カテゴリー

カテゴリー

<PR>


<PR>