警備員ブルース|人生の波止場から響くもの

警備員になろうと思ったら、まず読んでください。 現場で出会った人間たち。実体験者が本音で語る警備員のリアル。

警備員物語100

【警備員物語54】警備員とトイレ掃除――現場の境界線が、少しずつ曖昧になる日

投稿日:

建築現場の警備。

車両の出入りの際の安全誘導。

入ってくるのは、ラフター。

建築資材を積んだダンプ。

それが入って、資材を吊り上げていく。

朝から動きは激しいが、午前中にはだいたい山場が終わる。

そうなると、警備の仕事は一気に薄くなる。

俺は現場の入り口に立ったまま、ただ「立っている人」になる。

午前が終わると、警備員は“余白”になる

車両の出入りが止まると、現場は静かになる。

職人たちは中で作業を続けているが、入口は落ち着く。

警備員としては、いちばん気を張る時間が終わった状態だ。

こういうとき、現場監督はよく言う。

「ちょっと外、掃いといてもらえます?」

若い現場監督だった。

歩道に散った枯葉。

風で飛んできたゴミ。

現場の外側の“見た目”の部分。

俺は一瞬だけ考える。

(まあ、いっか)

別に危険作業でもない。

交通誘導の延長みたいなものだ。

ほうきとちりとりを借りて、掃き始める。

枯葉を集めて、ゴミ袋に入れる。

こういう作業は嫌いじゃない。

むしろ、頭が空になる。

半分くらい掃いたところで、別の監督が来る

しばらくして、もう一人の現場監督が来た。

年齢は少し上。

現場の中を見回していたその人が、俺に言う。

「ついでに、トイレも掃除お願いできる?」

一瞬、手が止まる。

なに?

トイレ?

警備員の俺に?

頭の中で、言葉だけが少し遅れて落ちてくる。

だが、現場では“止まる”という選択肢はあまりない。

とりあえず返事をする。

「……あ、はい」

受けてしまった。

便利屋時代の記憶が、勝手に出てくる

その瞬間、昔の記憶が少しだけよみがえる。

便利屋みたいな仕事で食いつないでいた時期があった。

掃除。

片付け。

よく分からない雑用。

なんでもやった。

だから、トイレ掃除自体は別にできる。

むしろ“お茶の子サイサイ”だ。

問題はそこじゃない。

問題は、

なぜ警備員がそれをやっているのか

という部分だ。

これ、よくあることなのか?

作業の合間に、ふと気になってしまう。

(これ、普通なのか?)

警備員が現場の掃除をする。

トイレ掃除までやる。

自分の中の常識と、現場の空気が少しズレている。

休憩中、スマホで軽く調べてみる。

「警備員 雑用 現場」

出てくる。

出てくる。

出てくる。

そして、嫌な言葉も混ざっている。

“あるある”

“現場によっては普通”

“人手不足のしわ寄せ”

そして最後に、妙に重い一文。

「警備員が底辺職と見られる要因の一つ」

そこで、少しだけ手が止まる。

便利さと軽さは、同じ顔をしている

現場というのは不思議だ。

「ちょっとお願い」が積み重なっていく。

最初は枯葉。

次はトイレ。

その次は何だろう。

気づけば境界線が曖昧になる。

警備員の仕事なのか。

現場の手伝いなのか。

それとも“なんでも屋”なのか。

頼まれた側は断りにくい。

現場の空気がある。

監督の立場がある。

工事の流れがある。

そして何より、

その場で立っているのは自分一人だ

という事実がある。

断れないことの重さ

もちろん、全部が悪いわけじゃない。

現場がスムーズに回るなら、それでいい。

助かっているのも事実だ。

だが、どこかで引っかかる。

(これ、どこまでが仕事なんだ?)

(俺は今、何の役割なんだ?)

警備員として雇われているはずだ。

安全誘導のはずだ。

でも現実は、少しずつ違う方向に広がっていく。

その広がり方が、静かで、断りづらい。

だから余計に厄介だ。

トイレ掃除をしながら思うこと

結局、トイレ掃除もやることになった。

ブラシを持って、洗剤を使って、普通に掃除する。

やればできる。

できてしまう。

だからこそ、余計に考えてしまう。

(これ、俺じゃなくてもいいよな)

(でも、今ここにいるのは俺だよな)

現場は回っている。

誰も困っていない。

むしろ感謝される。

「助かるよ」

その一言で終わる。

その軽さが、逆に重い。

警備員という立ち位置の曖昧さ

警備員という仕事は、境界線の上に立っている。

現場と外。

安全と危険。

作業と非作業。

その間に立つ。

だからこそ、便利にもなる。

だからこそ、曖昧にもなる。

便利であることと、軽く扱われることは、紙一重だ。

その境界が、今日みたいに少しずつ崩れていく。

それでも現場は進んでいく

枯葉はなくなった。

トイレもきれいになった。

現場は何事もなかったように動いている。

ラフターが入る。

ダンプが出る。

資材が吊られる。

誰もそのことを気にしていない。

ただ、俺の中だけに小さな違和感が残る。

(これでいいのか)

(いや、これが普通なのか)

答えは出ない。

大きな疑念だけが残る

警備員の仕事は、現場を守ることだ。

安全を守ることだ。

それは分かっている。

でも、その“守る”の範囲はどこまでなのか。

気づけば、掃除まで含まれている。

気づけば、境界が消えている。

それは現場の柔軟さなのか。

それとも、ただの曖昧さなのか。

はっきりしないまま、一日が終わる。

そして最後に思う。

俺は今、警備員なのか。

それとも、

現場の便利な人なのか。

答えは出ない。

ただ一つだけ確かなのは、

今日も現場は回ってしまった、ということだ。

このクソッタレ!

-警備員物語100

執筆者:

関連記事

no image

ヨイトマケを知った日──警備員という人生の波止場から

歌手で俳優の美輪明宏さんの訃報を知り、あらためて代表作「ヨイトマケ」の歌を思う。 「ヨイトマケ」という言葉を知ったのは、若い頃、原宿で働いていた時だった。 広告やイベントの仕事をしていた私は、華やかな …

【警備員物語06】踊る女性警備員 ダンシングプリン

工事現場という場所は、不思議なところだ。 朝は「おはようございます。」から始まり、夕方は「お疲れさまでした。」まで。 その間、警備員は人、自転車、クルマの交通を誘導し、歩行者に頭を下げ、車を止める。 …

警備員の正社員とアルバイトを比較|求人選びで見るべきポイント

警備員の求人を見ていると、正社員募集もあれば、アルバイト募集も多く出ています。これから警備の仕事を始めようとする人にとっては、「正社員のほうがいいのか」「アルバイトのほうが気楽なのか」と迷うところでし …

AI時代に警備の仕事はなくなるのか?

ロボットやAIが急速に進化するなか、「警備の仕事は消えるのでは」と不安に思う人も多いでしょう。結論から言えば、完全になくなる可能性は当面低いものの、仕事内容と必要スキルは確実に変わります。ここでは、A …

【警備員物語37】警備員と猫――自由なのは、どっちだ

公園のベンチで休んでいると、猫がいたりする。 どこから来たのか。まあ、ご近所かね、と眺める。 植え込みの下から、のそのそ出てきて、こちらをちらっと見る。 警備員の制服を着たオッサンが、弁当を食っている …

広告系プランナー、フリープランナーを経て店舗経営に挑戦するも失敗。
その後、地方ホテル支配人、配送ドライバー、飲食、施設警備、交通誘導など、さまざまな現場仕事を経験。
現在は警備の現場に立ちながら、警備員や現場仕事を人生の再起の入口として発信しています。
成功談だけではなく、落ちた側・働く側のリアルを知る者として、
再起を応援する「再起プランナー」として発信中。

カテゴリー

カテゴリー

人気記事