警備員ブルース|人生の波止場から響くもの

警備員になろうと思ったら、まず読んでください。 現場で出会った人間たち。実体験者が本音で語る警備員のリアル。

警備員物語100

【警備員物語52】ブログさえ書けなかった休日――「警備員を辞める」と宣言した男の週末

投稿日:

50話で、俺は威勢よく書いた。

「俺は警備員を辞める。そのために、今日から始める。」

ここを、俺の人生の終着点にはしたくない。

書きたい。
企画したい。
これまでやってきたことを、もう一度仕事にしたい。

だから「脱出編」を始める。

そう書いた。

そして週末が来た。

さて、俺は何をしたか。

何も書かなかった。

書く時間はあった。それでも書かなかった

警備の仕事が忙しくて書けなかった、というのなら言い訳にもなる。

だが、今回は違う。

時間はあった。

パソコンもある。

「警備員ブルース」に書きたいことだって、まだある。

それなのに書かなかった。

パソコンを開いても、なんとなく別のものを見る。

そのうち腹が減る。

飯を食う。

少し横になる。

気がつけば夕方だ。

「ああ、今日は一本くらい書かないとな」

そう思っているうちに夜になる。

結局、一本も書かない。

なんだ、俺は。

50話であんなに威勢のいいことを書いておいて。

脱出編は、どこへ行った。

「辞めたい」と「動けない」は同時にやってくる

警備員をやっていると、ときどき思う。

もう辞めたい。

夏は暑い。

冬は寒い。

立ちっぱなし。

トイレに困る現場もある。

遠い現場に行けば、仕事をする前から疲れている。

若いころ広告の仕事をしていた自分が、60代になって誘導棒を振っている。

人生というのは、分からないものだ。

だから俺は50話で書いた。

ここから出る、と。

ところが不思議なことに、

「辞めたい」と思うことと、「そのために動ける」ことは別なのだ。

疲れている。

気力が出ない。

何をすればいいのか分からなくなる。

求人を見ても、

「64歳か」

と思う。

新しい仕事を考えても、

「本当にできるのか」

と思う。

ブログを書こうとしても、

「こんなものを書いて何になる」

という声が、どこからか聞こえてくる。

そうして何もしない休日が終わる。

これもまた、60代の再出発の現実なのかもしれない。

それでも月曜日はやってくる

休日に何もしなくても、時間は止まらない。

月曜日はやってくる。

仕事が入れば、また警備服を着る。

安全靴を履く。

ヘルメットを持つ。

誘導棒を持つ。

そして知らない街へ行く。

「おはようございます」

現場監督に挨拶して、配置につく。

昨日まで、

「俺は人生を変えるんだ」

なんて考えていた男が、

今日は道路の端で、

「歩行者通りまーす!」

と言っている。

人生というのは、なんとも格好がつかない。

だが最近、少しだけ思う。

格好がつかないから、書けるのかもしれない。

成功してから書くんじゃ遅い

もし俺が警備員を辞めて、次の仕事を見つけて、収入も増えて、

「いやあ、あの頃は大変だったよ」

なんて振り返って書いたら、それなりにきれいな話になるだろう。

だが、それは「警備員ブルース」ではないような気がする。

今はまだ途中だ。

辞めたい。

でも辞められない。

次へ行きたい。

でも行き先が見つからない。

書きたい。

でも書けない。

威勢のいいことを言った翌週に、何もしない。

だったら、それも書けばいい。

成功した人間の回想録ではなく、

まだどうなるか分からない人間の実況中継。

それが、このブログでできることなのかもしれない。

警備員ブルースを「日誌」にしてみる

これまで「警備員ブルース」では、いろいろな警備員を書いてきた。

変わった警備員。

立派な警備員。

昔、別の仕事をしていた警備員。

公園。

猫。

子供。

老人。

鳥。

樹木。

空。

現場に立っていると、いろいろなものが見える。

だが、これからはもう少し、

「今日の俺」

を書いてみようと思う。

大事件なんかなくていい。

今日の現場。

今日会った警備員。

通行人に言われた一言。

昼飯。

休憩場所。

仕事が来なかった日。

仕事へ行きたくなかった朝。

求人に応募した夜。

落ちた日。

うまくいった日。

そして、ブログさえ書けなかった休日。

全部、書いてしまえばいい。

考えてみれば、警備員という仕事は不思議だ。

毎日のように違う場所へ行き、

道路の端に立ち、

何時間も街を見ている。

東京のあちこちに立っているのに、

そこから見えたものを記録する人間は、あまりいない。

だったら俺が書こう。

50話で「辞める」と書いた俺は、100話でどこにいるのか

これから「警備員ブルース」がどうなるか、俺にも分からない。

俺自身がどうなるのかも分からない。

警備員を辞めているかもしれない。

まだ誘導棒を振っているかもしれない。

別の仕事をしているかもしれない。

何かを書いて食えるようになっていたら最高だ。

逆に、

「結局まだ警備員じゃねえか、コノヤロ!」

と書いている可能性も十分ある。

それでいい。

今の俺には、結末が分からない。

だから書く。

第50話で「警備員を辞める」と宣言した男は、第100話でどこにいるのか。

それを、自分でも見てみたい。

この週末、俺は何も書かなかった。

だから今日は、

「何も書かなかった」ということを書いた。

たったそれだけだ。

だが、ゼロではなくなった。

脱出編。

どうやら格好悪いスタートになった。

まあ、俺らしい。

またここからだ。

どうだ、コノヤロ!

-警備員物語100

執筆者:

関連記事

no image

60代警備員、もう一度家族をつくりたい。

警備員になってから、人を眺める時間が増えた。朝、子どもの手を引いて歩く夫婦。仕事帰りに待ち合わせをする恋人同士。買い物袋を提げて並んで帰る老夫婦。私は交通誘導をしながら、そんな何気ない風景を毎日のよう …

【警備員物語42】警備員と空――工事現場が、突然映画になった日

警備員をやっているときは、工事現場は空の下に。 警備員は周囲を見なければならない仕事だ。 右を見る。 左を見る。 歩行者を見る。 自転車を見る。 車を見る。 工事車両を見る。 バックしてくるトラックを …

no image

失業して最後に残った仕事──それが警備員だった

仕事がなくなった。 いや、正確には、自分がやれる仕事がなくなった、と言ったほうがいいのかもしれない。 五十代の終わり。地方の宿泊業を、やむを得ない事情で辞め、東京へ戻ってきた。もう一度やり直そうと思っ …

【警備員物語20】ミスター完璧に出会う。

警備員をやっていると、いろいろな人に出会う。 怒鳴る人。 何もしない人。 マウントを取る人。 おしゃべりな人。 そして、ごくまれに、「この人は本物だ」と思わせる人に出会う。 私は、その人を勝手に「ミス …

【警備員物語35】人生の下流に、宗教が流れてきた

警備員は、下流。という言葉をよく見かける。たしかに、人生の下流と言えるようなことが起きたりする。。 その川の上流から、いろんなものが流れてくるのだ。 会社を辞めた人。商売に失敗した人。夢を捨てきれない …

広告系プランナー、フリープランナーを経て店舗経営に挑戦するも失敗。
その後、地方ホテル支配人、配送ドライバー、飲食、施設警備、交通誘導など、さまざまな現場仕事を経験。
現在は警備の現場に立ちながら、警備員や現場仕事を人生の再起の入口として発信しています。
成功談だけではなく、落ちた側・働く側のリアルを知る者として、
再起を応援する「再起プランナー」として発信中。

カテゴリー

カテゴリー

人気記事