警備員ブルース|人生の波止場から響くもの

警備員になろうと思ったら、まず読んでください。 現場で出会った人間たち。実体験者が本音で語る警備員のリアル。

警備員物語100

【警備員物語27】シズル親父のフィルムは、まだ終わらない。――映画館と頻尿のブルース

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警備員の世界には、「昔はすごかった人」が意外と多い。

元社長。

元料理人。

元教師。

元役者。

そして、元クリエイター。

私もその一人だ。

広告代理店で販促企画をやり、コピーを書き、デザイナーやカメラマンと一緒に仕事をしていた。

だから警備の現場で、同じ匂いのする人に会うと、話が止まらなくなる。

その人を私は勝手に「シズル親父」と呼んでいる。

もちろん、本名ではない。

食品写真を数え切れないほど撮ってきた元カメラマンだからだ。

「昔は料理の撮影ばかりだったよ。」

休憩時間、彼は懐かしそうに話した。

シズル写真。

料理を一番おいしそうに見せる写真である。

湯気。

照り。

肉汁。

氷の溶け具合。

箸で持ち上げたラーメン。

広告の世界では、一枚の写真に何時間もかける。

私も食品メーカーの仕事をしていたから、その現場を何度も見てきた。

一九八〇年代から九〇年代。

まだフィルムの時代。

カメラマンは花形だった。

スタジオを持つ人も多かった。

大型カメラ。

照明。

調理器具一式。

食品サンプル。

撮影用のキッチン。

一枚の写真を撮るために、多くのスタッフが動いていた。

あの頃、カメラマンのギャラは決して安くなかった。

いい写真を撮れる人には、それだけの価値があった。

だから私とシズル親父は、昔話になると止まらない。

好きな写真家。

好きな写真集。

広告写真の裏話。

照明の話。

フィルムの話。

デジタルになって変わったこと。

そしてAI。

今では画像生成AIまで登場し、クリエイティブの世界は大きく変わった。

私も文章を書く仕事をしてきた。

時代は変わる。

仕事も変わる。

だから今、二人とも警備服を着て道路に立っている。

人生とは面白いものだ。

映画館と警備員

ある日、映画の話になった。

最近公開された作品の話で盛り上がる。

私は言った。

「でも、ああいう映画は映画館で観たいよね。」

するとシズル親父が苦笑いした。

「いやあ……最近、頻尿でさ。」

「映画館は、ちょっと怖いんだよ。」

思わず二人で笑ってしまった。

そうか。

映画も、おしっことの戦いなのか。

警備員も、トイレとの戦いである。

長い現場。

トイレが遠い現場。

真夏の熱中症対策で水を飲めば、今度はトイレが近くなる。

飲まなければ熱中症。

飲めばトイレ。

どちらも命に関わる。

年齢を重ねると、そんな現実とも付き合わなければならない。

そして、私自身も最近は人ごとではない。

「あれ?」

と思うことが増えた。

夜中に起きる。

映画の途中が少し心配になる。

気づけば、シズル親父と同じことを考えている。

若い頃には想像もしなかった。

人生には、こんな共通点もあるのか。

広告。

カメラマン。

映画。

警備。

そして、おしっこ。

何のつながりもないようで、不思議と一本の線でつながっている。

警備員という仕事は、人の過去に出会う仕事でもある。

昔、第一線で活躍していた人。

時代の流れの中で仕事が変わった人。

それぞれが人生を背負って、今日も誘導棒を握っている。

シズル親父も、その一人だ。

私は思う。

フィルムは終わっても、人生のシャッターはまだ切れる。

警備服を着た元カメラマンは、今日も道路の向こうを静かに見つめている。

そして休憩時間になると、映画と写真の話をする。

ただ一つだけ違うのは、

映画の上映時間だけは、ちゃんと確認するようになったことである。

(まあ、2時間以上の作品は、無理無理)

-警備員物語100

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広告プランナー、フリーランス、店舗経営を経て、事業に失敗。
その後、地方ホテル支配人、配送、飲食、施設警備、交通誘導など、さまざまな現場仕事を経験してきました。

現在は交通誘導警備の現場に立ちながら、仕事の厳しさ、人間模様、収入、失敗談、そして現場で見つけた小さな希望を「警備員ブルース」に記録しています。

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