警備員物語100

【警備員物語26】片側交互通行―命をつなぐキャッチボール

投稿日:2026年7月30日 更新日:

警備員になって分かったことがある。

片側交互通行。

通称「カタコウ」。

この仕事ほど、人間が見える仕事はないかもしれない。

工事で道路の半分がふさがれる。

残った一本の道を、片方の警備員が車を止め、もう片方の警備員が流す。

単純に見える。

しかし、その実態はまったく違う。

相手の警備員は何十メートル、時には百メートル以上先にいる。

こちらは相手の動きを見ながら、

「止める。」

「流す。」

「まだ待つ。」

その一つ一つを瞬時に判断する。

まるで遠距離でキャッチボールをしているようなものだ。

ただし、ボールではない。

命である。

だから、一球たりとも落とせない。

交通量が多い現場ほど神経を使う。

大型トラック。

路線バス。

自転車。

歩行者。

救急車。

それぞれが違う速度で動いている。

一瞬でも判断を間違えれば、事故になる。

だから、ずっと相手を見ている。

ずっと道路を見ている。

ずっと車を見ている。

「立っているだけ。」

そう思われることもある。

しかし、頭の中は休んでいない。

秒単位で考え続けている。

この仕事を続けていると、人の性格まで見えてくる。

警備員にもいろいろいる。

少しでも早く車を流そうとする人。

慎重すぎる人。

歩行者を最優先に考える人。

車を優先する人。

止めた車に必ず頭を下げる人。

何も言わない人。

同じ警備員でも、仕事の仕方は実にさまざまだ。

車を運転する人にも性格が出る。

こちらが「止まってください」と合図を出しても、

「俺は行く。」

そんな勢いで突っ込んでくる人がいる。

こちらの制止を無視して発進する。

すると、反対側から流れてきた車と鉢合わせになる。

心の中では叫ぶ。

「だから止まれって言ったでしょう!」

しかし、警備員は怒鳴らない。

事故を防ぐことが先だからだ。

まずは止める。

落ち着かせる。

頭を下げる。

そして、また交通を流す。

謝る。

頭を下げる。

誘導する。

また謝る。

この繰り返しである。

一日中やっていると、本当に疲れる。

身体よりも神経が疲れる。

片側交互通行は、一人ではできない。

相手の警備員との呼吸がすべてだ。

堅実な人なら安心できる。

合図が正確だ。

確認も丁寧だ。

一方で、感情的になる人とは難しい。

焦る。

慌てる。

独断で流す。

その一瞬が、大きな事故につながりかねない。

だから、相手との信頼関係が何より大切になる。

私は時々思う。

これはスポーツに少し似ている。

野球のようでもある。

サッカーのようでもある。

相手の位置を見て動く。

仲間の動きを信じる。

タイミングを合わせる。

ただし、大きく違うことがある。

スポーツは失敗しても試合が終わるだけだ。

しかし片側交互通行は、失敗すれば人が傷つく。

だから練習試合はない。

本番しかない。

しかも、その日の相手は毎回違う。

現場も違う。

道路も違う。

交通量も違う。

ぶっつけ本番で、息を合わせなければならない。

これほど難しい仕事は、そう多くない。

それでも私たちは、毎日道路に立つ。

一台でも早く。

一人でも安全に。

車を流すために。

歩行者を守るために。

そして誰も事故に遭わないために。

片側交互通行とは、車を止める仕事ではない。

人の命を、次の人へ渡していく仕事だ。

私は今日も誘導棒を握る。

遠くの相棒を見つめる。

その一本の誘導棒は、道路の向こう側へ命をつなぐバトンでもある。

だから私は思う。

片側交互通行は、命のキャッチボールなのだ。

-警備員物語100

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個人事業企画・再起プランナー。
現在、現役警備員として働きながら、自らの再起を模索中!

元広告代理店勤め、フリーランスプランナーへ。店舗経営(DJバー)を経て、事業に失敗。

その後、地方ホテル支配人、配送、飲食、施設警備、交通誘導など、さまざまな現場仕事を経験する。

現在は交通誘導警備の現場に立ちながら、仕事の厳しさ、人間模様、収入、失敗談、そして現場で見つけた小さな希望を「警備員ブルース」に記録しています。

人生は、思いどおりにいかなくなってからも、続く。

失業した人、仕事に行くのがつらい人、60代からの働き方に迷っている人へ。成功者の上から目線では全くなく、現場で働く一人として、警備員という仕事の現実と、人生をもう一度立て直すためのヒントを届けます。

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