
警備員という仕事をしていると、
「この人、本当は何になりたかったんだろう。」
と思う人によく出会う。
料理人。
ミュージシャン。
占い師。
カメラマン。
そして今回紹介するのは、
アクション俳優を夢見た男である。
私は彼を勝手に「ジャック」と呼んでいる。
もちろん、本人は知らない。
若い頃、誰もが知るアクション俳優が率いた「アクション・クラブ」に憧れ、アクション俳優を目指していたらしい。
夢は夢のまま終わったのか。
途中まで進んだのか。
詳しいことは聞かなかった。
でも、彼の動きや話を聞いていると、その夢が今でも身体のどこかに残っているような気がする。
寮暮らしの出稼ぎ警備員
ジャックは、私とほとんど同じ年齢だ。
一つ下だったか、それくらいだったと思う。
故郷には奥さんと子どもがいる。
本人だけが東京の警備会社の寮へ入り、毎月の給料から仕送りをしている。
昔なら珍しくなかった。
地方から都会へ出て働く「出稼ぎ」のお父さん。
令和の東京にも、まだそんな人生を送っている人がいる。
私はその話を聞いたとき、どこか懐かしい気持ちになった。
警備会社の寮。
地方へ送金。
盆と正月だけ帰省。
昭和の匂いがする生き方だった。
初対面の警備現場から話が止まらない
ジャックとは、初めて会ったその日から話が弾んだ。
理由は単純である。
アクション映画と武道。
その二つだった。
私は高校時代、空手をやっていた。
県大会でも上位まで進み、インターハイへ出場したことがある。
だから、格闘技やアクション映画の話になると、つい熱くなる。
ジャックも同じだった。
「あの頃の●葉●一はすごかった。」
「●穂●悦子もすごかった。」
「真似したよなあ。」
そんな話になると、警備の休憩時間はあっという間に過ぎる。
同年代だからこそ分かる空気がある。
昭和のテレビ。
日曜日の映画。
学校帰りに真似した回し蹴り。
男なら、一度くらいヒーローになりたかった時代だった。
とにかく気が早い
ジャックは、とにかく気が早い。
話し始めると早口。
思いついたらすぐ口に出る。
「あっ、そうそう!」
「違う違う!」
「それそれ!」
感情の動きも速い。
笑う。
驚く。
大きな声を出す。
そして、また笑う。
私は心の中で、
「忙しい人だなあ。」
と思いながら見ていた。
ところが、不思議と嫌な感じがしない。
裏表がない。
思ったことを、そのまま口にする。
そんな人なのだ。
「おおっ!」
二回目に現場で会ったときだった。
遠くから私を見つけると、
「おおっ!」
と、大きな声で手を挙げた。
なんだか昔からの友達みたいである。
私は少し照れながら、
「おおっ。」
と返した。

警備の仕事というのは、不思議な仕事だ。
毎日同じ職場ではない。
昨日まで一緒だった人と、半年会わないこともある。
ところが、またどこかの現場で突然再会する。
「おおっ!」
その一言で、半年が昨日になる。
そんな世界でもある。
誘導にもアクション魂
ジャックを見ていると、仕事にも性格が出る。
誘導が分かりやすい。
動きが大きい。
合図もはっきりしている。
右へ。
左へ。
止まってください。
どうぞ。
一つ一つの動作が少し大きい。
私は心の中で思った。
「やっぱりアクション俳優を目指した人だ。」
身体で伝えることが身についている。
だから一般の通行人にも伝わりやすい。
声は少し早口だ。
しかし丁寧である。
「こちらお願いしまーす!」
「ありがとうございまーす!」
現場へ、妙に活気が出る。
北と西
私は青森。
ジャックは中国地方の出身だった。
方言はまるで違う。
食べ物も違う。
祭りも違う。
それでも地方から東京へ出てきた者同士には、どこか共通する空気がある。
都会育ちにはない感覚と言えばいいだろうか。
故郷を離れて暮らす寂しさ。
盆になると帰りたくなる気持ち。
親のこと。
墓参りのこと。
話さなくても、どこか分かる。
警備員には地方出身者が本当に多い。
だから私は、この仕事をしながら日本地図を歩いているような気分になることがある。
夢は消えない
私は思う。
ジャックは俳優にはならなかった。
いや、なれなかったのかもしれない。
それでも、夢は完全には消えていない。
誘導棒を振る姿。
大きな身振り。
元気な声。
そこには若い頃に憧れたアクションスターの名残がある。
人は夢を全部叶えられるわけではない。
私も広告の世界を離れ、今は警備員をしている。
ジャックは俳優ではなく、警備員になった。
人生というのは、思い描いた脚本どおりには進まない。
でも、夢を見た人間は、その夢の欠片をどこかに持ち続ける。
私は、それでいいと思う。
今日も現場は一本の映画だ
朝、ヘルメットをかぶる。
誘導灯を持つ。
「おはようございます!」
ジャックの声が響く。
その姿を見ていると、私は時々思う。
この人は今でも、自分が一本の映画に出ているつもりなのかもしれない。
だったら、それも悪くない。
現場は舞台。
工事車両は大道具。
私たちは脇役。
そして今日も事故なく一日が終われば、それが最高のエンディングだ。
夢を追いかけた男は、今も街角で人を守っている。
それもまた、立派なアクションスターなのだ。
