警備員ブルース|人生の波止場から響くもの

警備員になろうかな、と思ったらまず読んでください。 実体験者が現場で出会った人間たちを、本音で語る警備員の実情。

警備員物語100

【警備員物語64】建築現場と謎のラジオ体操――朝っぱらから全員バンザーイ!

投稿日:

建築現場の警備に行った。

建築現場というところは、道路工事とはまた違った面倒くささがある。

いや、

「安全のために必要なことです」

と言われれば、その通りなのである。

その通りなのであるが――。

いろいろある。

朝礼。

ミーティング。

本日の作業内容。

注意事項。

そして、

KY。

ケーワイ。

若い人が聞いたら、

「空気読めない?」

と思うかもしれない。

違う。

建築現場におけるKYとは、

危険予知。

「今日の作業には、こんな危険がありますよ」

「だから、こういうことに注意しましょうね」

という活動である。

紙に書いたりする。

確認したりする。

唱和したりする。

指を差したりする。

ヨシ!

などと言う。

朝っぱらから、

ヨシ!

ヨシ!

ヨシ!

である。

何がそんなにヨシなのか。

まだ仕事始まってないぞ。

しかし、ヨシ!

建築現場の朝は忙しい。

そして突然、あの音楽が流れた

今日行った現場では、朝礼の前だったか、いきなり現場監督がスマホを取り出した。

なんだ?

業務連絡か?

天気予報か?

本社からありがたい訓示でも流れるのか?

監督がスマホを操作する。

そして現場に響き渡った。

チャンチャンーカチャチャチャチャ♪

お?

チャンチャンーカチャチャチャチャ♪

まさか。

チャチャチャチャチャチャチャチャ、
チャチャチャチャチャーーーーン♪

出た。

ラジオ体操だ!

うわっ。

始まるのかよ。

本当にやるのかよ。

すると、

作業服。

ヘルメット。

安全靴。

安全帯。

屈強な職人たちが、

一斉に動き出した。

腕を前から上にあげて――。

背伸びの運動からぁ~!

みたいな世界である。

ヘルメット軍団、一斉にバンザイ

これがなかなか壮観なのである。

鉄筋屋。

電気屋。

設備屋。

大工。

監督。

その他、俺には何屋なのかよく分からない人。

そして警備員。

全員ヘルメット。

そのヘルメット軍団が、

せーの!

で腕を上げる。

バンザーイ!

下ろす。

また上げる。

バンザーイ!

おいおい。

数分後には鉄筋持ったり、電動工具使ったり、重機動かしたりするオッサンたちが、

朝っぱらから全員で、

イチ、ニ、サン、シ。

右へグイーン。

左へグイーン。

なんだこれは。

ちょっと面白い。

いや。

笑っちゃいけない。

安全活動なのだから。

俺も真面目な顔をしてやる。

イチ。

ニ。

サン。

シ。

……。

なんで俺、ここでラジオ体操してるんだ?

でも、みんな覚えている

最初に現場でラジオ体操をやったとき、俺は少し驚いた。

もっと驚いたのは、

みんな普通にできることだった。

誰も説明を受けていない。

「まず右腕をこうしてください」

なんて言われない。

音楽が鳴った瞬間、

身体が勝手に動く。

腕を振る。

曲げる。

伸ばす。

回す。

ジャンプする。

俺もできる。

なんだ、これ。

いつ覚えたんだ?

おそらく小学校だ。

それから何十年も経っている。

なのに音楽が鳴れば、

身体が知っている。

これは結構すごいことじゃないか。

ラジオ体操は日本人の共通言語なのか

考えてみれば、不思議である。

年齢が違う。

出身地も違う。

会社も違う。

職種も違う。

昨日まで会ったこともない。

名前すら知らない。

そんな男たちが、

音楽が流れた瞬間、

全員同じ動きを始める。

これはもう、ちょっとした共通言語である。

外国人の作業員もいる。

彼らまで覚えていたりする。

世界にはいろいろな共通言語がある。

英語。

音楽。

サッカー。

数学。

そして日本の建築現場には、

ラジオ体操がある。

本当かよ。

夏休みの朝を思い出した

身体を動かしているうちに、妙なものを思い出した。

子供のころの夏休み。

朝。

まだ暑くなる前。

眠い。

行きたくない。

でも行く。

近所の子供たちが集まっている。

首からカードをぶら下げていたような気もする。

ラジオ体操をする。

終わったら、

ハンコ。

ポン。

あのハンコが何だったのか。

今考えるとよく分からない。

何かもらえたのだろうか。

それとも、

「ちゃんと朝起きました」

という証明だったのか。

子供の俺は、そんなこと考えちゃいない。

ポン。

よし。

帰る。

朝飯だ。

それだけだった。

体育の時間も思い出す

学校の体育でもやった。

ラジオ体操。

運動会の前にもやった気がする。

何度やったか分からない。

そのころは、

こんなもの、大人になったら二度とやらない

と思っていた。

ところがどうだ。

何十年後。

警備服を着て。

ヘルメットをかぶって。

建築現場で。

俺はまた、

腕を大きく回している。

人生、何があるか分からない。

小学生の俺よ。

お前はいま将来のためにラジオ体操を覚えている。

何十年後、

建築現場で使うぞ。

まさかだろ。

俺だって、まさかだよ。

そもそもラジオ体操で事故は減るのか?

ここで俺の悪い癖が出る。

疑問である。

本当にこれで事故が減るのか?

腕をグルグル回した。

身体を横に曲げた。

ピョンピョン跳ねた。

はい。

これで本日の安全は確保されました!

……。

そんなわけないだろ。

と思う。

思うのだが。

でも朝一番、身体がまだ固い状態でいきなり仕事を始めるよりはいいのだろう。

身体を伸ばす。

肩を回す。

腰を動かす。

脚を動かす。

眠っていた身体を、

「はい、これから仕事ですよ」

という状態にする。

しかも全員でやる。

これから現場が始まるぞ、という区切りにもなる。

そう考えると、

案外、理にかなっているのかもしれない。

KY、朝礼、ラジオ体操。安全、安全、また安全

ラジオ体操が終われば朝礼だ。

本日の作業。

注意事項。

危険箇所。

KY。

安全確認。

指差し。

ヨシ!

またヨシだ。

現場というところは、とにかく安全、安全、安全である。

毎日同じようなことを言う。

「今日も一日、安全作業でお願いします」

はい。

分かりました。

昨日も聞きました。

一昨日も聞きました。

明日も言うんでしょう。

でも考えてみれば、

それでいいのだ。

事故なんて、

一回起きれば十分すぎる。

昨日事故がなかったから、今日も大丈夫。

そんな保証はない。

だから毎朝、

ラジオ体操。

KY。

安全確認。

ヨシ!

面倒くさい。

でもやる。

現場とは、そういうものなのだろう。

そして警備員も体操する

警備員だからといって、端っこで突っ立って見ているわけにもいかない。

みんながやれば、

俺もやる。

腕を上げる。

身体を曲げる。

腰を回す。

お。

案外気持ちいい。

もう一回。

グイーン。

おお。

腰が伸びる。

悪くない。

……。

ちょっと待て。

俺、結構気に入ってないか?

64歳、ラジオ体操を再評価する

子供のころは何とも思わなかった。

若いころなら、

「こんなの意味あんの?」

と言っていたかもしれない。

だが64歳になると、

話が違う。

朝。

身体が固い。

腰。

肩。

脚。

あちこち、

ギシギシ。

そこへ、

チャンチャンーカチャチャチャチャ♪

が来る。

腕を伸ばす。

おお。

肩が動く。

腰を曲げる。

おおお。

身体が起きる。

ジャンプ。

……これはちょっとやめとこうかな。

無理するな、64歳。

安全第一である。

ラジオ体操でケガしたら、

何のためのラジオ体操だ。

ラジオ体操、恐るべし

それにしても不思議だ。

小学生だった俺が覚えた体操を、

60年以上生きた俺が、

警備員になって、

建築現場でやっている。

横には職人。

前には現場監督。

みんなヘルメット被ってる。

スマホから流れる、あの音楽。

チャンチャンーカチャチャチャチャ♪

そして全員、

腕を上げる。

考えてみれば、ちょっと平和な光景でもある。

数分後には、

と工事が始まる。

その直前だけ、

屈強な男たちが全員そろって、

イチ、ニ、サン、シ。

悪くない。

明日もたぶん、やる

ラジオ体操にどれだけ安全効果があるのか。

俺には分からない。

本当に事故防止になっているのか。

分からない。

ただ、

身体は少しほぐれる。

眠気もちょっと飛ぶ。

昔のことも思い出す。

そして、

「さあ、今日も始まるか」

という気分にはなる。

だったら、

まあ、いいんじゃないか。

深く考えるのはやめよう。

明日の朝も監督がスマホを取り出す。

ポチッ。

チャンチャンーカチャチャチャチャ♪

来た来た。

はいはい。

やりますよ。

腕を上げて。

イチ。

ニ。

サン。

シ。

ヨシ!

何がヨシなのか分からんが、

今日も一日、ご安全に!

……で、

いいんじゃないでしょうか。

知らんけど。

チャンチャン♪

-警備員物語100

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再起プランナー。現在、現役警備員として働きながら、自らの再起を模索中!

元広告代理店勤め、フリーランスプランナーへ。店舗経営(DJバー)を経て、事業に失敗。

その後、地方ホテル支配人、配送、飲食、施設警備、交通誘導など、さまざまな現場仕事を経験する。

現在は交通誘導警備の現場に立ちながら、仕事の厳しさ、人間模様、収入、失敗談、そして現場で見つけた小さな希望を「警備員ブルース」に記録しています。

人生は、思いどおりにいかなくなってからも、続く。

失業した人、仕事に行くのがつらい人、60代からの働き方に迷っている人へ。成功者の上から目線では全くなく、現場で働く一人として、警備員という仕事の現実と、人生をもう一度立て直すためのヒントを届けます。

失敗しても、人生はそこで終わらない。
現場仕事を「人生の再起の入口」に変える、再起プランナーとして発信しています。

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