「警備員になったら人生終わり。」
そんな言葉を、ネットで何度見ただろう。
正直に言えば、私もそう思っていた。
いや、思いたくはなかった。
だが、制服を受け取った日、「ああ、とうとうここまで来たか」と胸のどこかでつぶやいた。
実は、警備の仕事はこれが初めてではない。
三度目だった。
一度目は二十歳のころ。
大学を変わり、生活費を稼ぐためだった。
若かったから、警備は人生の通過点だった。
金を稼ぎ、また前へ進めばいい。それくらいにしか考えていなかった。
二度目は五十歳を過ぎてから。
マルチ商法にのめり込み、大金を失った。
財布の中だけでなく、自信まで空っぽになった。
その穴を埋めるように、また警備の制服を着た。
だが、それも長くは続かなかった。
そして三度目。
山形の小さなホテルで支配人を務めたあとだった。
新しい人生を探して、宅配ドライバーになった。
テレアポもやった。
土木会社では現場代理人見習いにもなった。
ラーメン屋でも働いた。
仕事を変えるたびに、「今度こそ」と思った。
だが、どれも長くは続かなかった。
そして最後にたどり着いたのが、工事現場の警備だった。
「あーあ。とうとう来たか。」
初日の朝、そんな言葉が自然に口をついて出た。
まさか、こんなに長く続くとは思ってもいなかった。
数か月。
長くても一年。
そのくらいで別の仕事へ移るつもりだった。
ところが気がつけば、季節が何度も巡っていた。
私は今日も道路に立っている。
最初は、警備員になったら人生は終わりだと思っていた。
ところが、現場には私以上に波乱万丈な人生を歩いてきた人たちが、次から次へと現れた。
元板前。
元社長。
元営業マン。
怒鳴る男。
妙に威張る女。
寡黙な老人。
みんな、それぞれの人生を背負って、この現場に立っている。
工事現場だと思っていた場所は、いつしか私には違って見えるようになった。
ここは人生の終着駅ではない。
人生の波止場だ。
傷ついた船が流れ着き、またどこかへ出航する者もいれば、そのまま静かに係留される者もいる。
そして私も、その一隻だった。
この物語は、道路工事の話ではない。
警備員という制服を着て出会った、人間たちの物語である。