
人生は一本道ではない。
まっすぐ歩いているつもりでも、気がつけば違う岸へ流されている。
私は、それを何度も経験してきた。
店を閉めたあと、広告の世界へ戻ろうとした。
しかし時代は変わっていた。
企画も通らない。
営業へ行っても仕事は来ない。
私は、起業コンサルタントの勧めで、新宿の百貨店バックヤードの物流へ入った。
まずは生活を立て直すこと。
それが第一歩だった。
地方の時代が来る
物流で働きながら、私はもう一度夢を見た。
今度は地方だった。
私は青森県十和田市生まれ。
「これからは地方の時代が来る。」
そう信じた。
地方関係の交流会。
地方創生を掲げる集まり。
そこへ顔を出すようになった。
さらに、音楽バー時代の人脈を使い、ミュージシャンを故郷へ呼ぶ企画を考えた。
スポンサーを集める。
人を集める。
広告屋だった頃の血が、まだ残っていた。
世界一小さな音楽フェス
その頃、ランチェスター経営を知った。
「弱者の戦略」
という考え方に強く惹かれた。
地方も弱者。
小さな会社も弱者。
私自身も弱者。
だったら、小さいことを武器にしよう。
そう思って名付けた。
「世界一小さな音楽フェスティバル」
2009年。
2010年。
故郷で開催した。
地元の大きな新聞にも取り上げられた。
「これは続けられる。」
本気でそう思った。
ところが、その翌年。
2011年3月11日。
東日本大震災。
東北全体が、それどころではなくなった。
夢は、静かに流された。
漂流は続く
転職を考えた。
そこで今度は、人材会社を装った詐欺集団に騙された。
本当に巧妙だった。
仕事を紹介するように見せかけ、お金だけ取られた。
返ってこなかった。
さらに、その後アルバイトを始めたイベント会社でも事件が起きる。
事務所が閉鎖された。
「なんで、こうなるんだ。」
そんなことばかりだった。
その後は、
クレジットカードのキャンペーン。
駐車場の販促。
イベントスタッフ。
アルバイトを転々とした。
甘い話は、やっぱり甘かった
高校時代の知り合いだった女性と再会した。
資金面でも助けてもらった。
そこで出会ったのが、
ゲーム運営を名乗るアフィリエイト団体だった。
今思えば、マルチ商法だった。
私自身も勧誘する側になってしまった。
約二年間。
時間もお金も失った。
最後には、それも崩壊した。
人生というものは、不思議である。
同じ失敗を繰り返さないと思っていても、形を変えてまた現れる。
東北で支配人になる
もう一度、真面目に働こう。
そう決めた。
応募したのは、全国チェーンのミニホテルだった。
半年の研修。
そして東北で住み込み支配人。
久しぶりに生活は安定した。
約一年半。
仕事は面白かった。
宿泊業は好きだった。
ところが、パートナーの事情で退職せざるを得なくなる。
また東京へ戻る。
また仕事探し。
六十歳が近づいていた
その頃には、年齢が壁になっていた。
求人はある。
しかし採用されない。
やっと採用されたのが、宅配ドライバー。
業務委託だった。
車の運転は得意ではない。
それでも何とか続けた。
ところが今度は、大きないぼ痔になった。
乗り降りが苦痛になった。
四か月で辞めた。
次はテレアポ。
肉体的には楽だった。
しかし規律が厳しすぎた。
三日で退職。
今度は土木会社。
現場代理人見習い。
三か月。
合わなかった。
施設警備。
大型商業施設。
人間関係も業務も想像以上に重く、半年で退職。
ラーメン屋。
一店舗目は、一週間もたたずに
「使えない。」
と言われた。
別店舗へ回された。
今度は一か月。
やはり、
「厳しい。」
と言われた。
私は翌日、自分から辞めた。
ここまで来ると、自分でも笑うしかない。
宅配。
テレアポ。
土木。
施設警備。
ラーメン屋。
本当に、転がるように仕事が変わっていった。
最後に残った仕事、それが警備。
もう、選べる仕事が少なかった。
警備会社を受けた。
一社目。
不採用。
正直、少しへこんだ。
「警備まで落ちたか。」
そう思った。
そして二社目。
あっさり採用。
翌週には三日間の法定研修。
その次の週には、ヘルメットをかぶり、誘導棒を握っていた。
あの日は、
「ああ、とうとうここまで来たか。」
そう思った。
でも、不思議だ
あれから何年も経った。
今、このブログを書いている。
警備員になったから出会えた人がいる。
ミス隊長。
ポテチ。
ダンシングプリン。
ラジオ平さん。
トイレの梅さん。
熱中キャプテン。
トロトロ隊長。
ジャック。
ミスター運気。
みんな、この仕事をしていなければ、一生会わなかった人たちだ。
人生は不思議である。
転がって、転がって、転がり続けた。
その果てに立っていたのが、警備員だった。
昔なら「落ちた」と思っていた。
でも今は少し違う。
この仕事があったからこそ、私はもう一度、人間を書くことができるようになった。
だから『警備員ブルース』は、単なる警備員の話ではない。
転がり続けた一人の人間が、もう一度人生を拾い集める物語なのである。
