警備員ブルース|人生の波止場から響くもの

警備員になろうと思ったら、まず読んでください。 現場で出会った人間たち。実体験者が本音で語る警備員のリアル。

警備員の100日物語

【警備員物語38】警備員と子供――「おじさん、何してるの?」

投稿日:

警備員が公園で休んでいると、いろんな人がやってくる。

犬を連れた人。

ベンチで煙草を吸う人。

日向ぼっこをしている老人。

猫。

そして――

子供たち。

昼どきになると、これが一気に増えることがある。

近くに保育園や幼稚園がある公園は、特にすごい。

さっきまで静かだった公園が、突然、

ワーッ!

キャーッ!

と騒がしくなる。

来た。

チビッコギャングである。

警備員の休憩所にチビッコギャングがやってくる

警備員の昼休み。

朝から立ちっぱなしで、ようやく公園のベンチを確保する。

「やれやれ」

と座る。

弁当を出す。

お茶を飲む。

静かだ。

ああ、極楽、極楽。

と思ったのも束の間。

遠くから、

キャーッ!

ワーッ!

という声が聞こえてくる。

見ると、小さな帽子をかぶった集団がこちらへ向かってくる。

先生を先頭に、ゾロゾロ、ゾロゾロ。

来たぞ。

チビッコギャングだ。

滑り台へ走る。

ブランコへ走る。

追いかけっこが始まる。

意味もなく走る。

転ぶ。

泣く。

すぐ復活して、また走る。

元気である。

とにかく元気である。

こっちは朝から仕事をして、もうヘロヘロだというのに。

正直に言えば、

やかましい。

せっかく静かに休んでいたのに、と思うこともある。

しかし、見ていると面白い。

「こんにちは!」と警備員に挨拶する子供

制服姿でベンチに座っていると、こちらを見る子供がいる。

じーっと見る。

何を見ているんだ。

警備服が珍しいのか。

腰につけている無線機が気になるのか。

それとも誘導棒なのか。

こちらが目を合わせると、

「こんにちは!」

突然、挨拶してくる子がいる。

「こんにちは」

こちらも返す。

朝なら、

「おはようございます!」

帰るときには、

「さようなら!」

ちゃんと挨拶する。

大したものだ。

こちらが少し疲れていても、子供から元気よく挨拶されると、不思議とこちらも声が出る。

「はい、こんにちは!」

警備員という仕事は、知らない大人から挨拶されることはそれほど多くない。

通行人から見れば、そこに立っている風景の一部みたいなものだ。

ところが子供は違う。

警備員を発見する。

そして見る。

「あのおじさん、何してるんだろう?」

という顔をしている。

警備員が食べているものをじっと見る

困るのは、昼飯を食べているときだ。

パンを食べる。

おにぎりを食べる。

お菓子をちょっとつまむ。

すると、

じーーーーっ。

見ている。

子供が見ている。

食べ物を見ている。

そんなに見るなよ。

食いづらいじゃないか。

昔のオッサンなら、

「ほら、一個食うか?」

なんてやってしまったかもしれない。

私も、ちょっとあげたくなることがある。

しかし、これは絶対にできない。

先生がいる。

当然である。

知らない警備員のオッサンから勝手に食べ物をもらったら、アレルギーだってあるかもしれない。

親御さんだって困る。

だから私は食べる。

子供は見る。

私はまた食べる。

子供はまだ見る。

なんとも妙な時間である。

子供は何でも遊びにしてしまう

見ていると、子供は面白い。

大人から見れば何でもないものを遊びにしてしまう。

木の枝一本。

石ころ一個。

落ち葉。

水たまり。

それだけで遊べる。

走る。

追いかける。

隠れる。

何かを発見して大騒ぎする。

そして数分後には、もう別のものに夢中になっている。

なんというエネルギーだろう。

大人になると、

金がない。

仕事がない。

疲れた。

明日の現場が遠い。

給料が安い。

将来どうしよう。

そんなことばかり考えている。

子供には、そんなものがない。

今日、目の前にあるものが世界なのだ。

それを見ていると、少し羨ましくなる。

自分にも、こんな時代があった

チビッコギャングを眺めながら、ふと思う。

俺にも、こんな時代があったんだよな。

保育園児だったころ。

まだ人生が何なのかも知らなかったころ。

自分が将来、何になるのかなんて分からない。

警備員になることなど、もちろん知らない。

広告の仕事をすることも知らない。

店をやることも知らない。

結婚することも、離婚することも知らない。

失敗することも知らない。

人生には、まだ何も書かれていなかった。

真っ白だった。

だから何にだってなれた。

公園を走り回っている子供たちも同じだ。

この中から医者になる子がいるかもしれない。

大工になる子もいるだろう。

料理人になるかもしれない。

音楽家になるかもしれない。

会社をつくるかもしれない。

世界中を旅するかもしれない。

まだ分からない。

だから、いい。

未来が決まっていない。

子供を見ると、娘を思い出す

そして私は、ときどき娘を思い出す。

ずいぶん会っていない。

公園で小さな女の子が走っている。

先生に手を引かれて歩いている。

転んで泣いている。

そんな姿を見ると、

娘にも、こんな時代があった。

と思う。

もちろんあった。

小さな手。

小さな靴。

何を見ても面白がる顔。

父親だった自分。

あのころは、それが永遠に続くような気がしていた。

しかし、続かなかった。

人生というのは、あとになってから大切だったものに気づくことがある。

家族。

子供。

一緒に食べる飯。

何でもない会話。

そういうものは、なくしてから急に大きくなる。

公園で子供たちを眺めていると、ときどき胸の奥が痛くなる。

「子供は宝だ」の意味が分かってきた

昔、

「子供は宝だ」

と言っていた人がいた。

若いころの私は、その言葉を聞いても、

「まあ、そうなんだろうな」

くらいにしか思わなかった。

しかし、この年になると分かる。

本当に子供は宝だ。

なぜなら、未来そのものだからだ。

大人は、どうしても過去が増えていく。

成功したこと。

失敗したこと。

後悔したこと。

取り戻せないこと。

年を取れば取るほど、背中に過去を背負う。

しかし子供は違う。

前にある時間のほうが圧倒的に長い。

何になるか分からない。

どこへ行くか分からない。

誰と出会うか分からない。

人生を何度でも変えられる。

可能性そのものが、公園を走り回っている。

こちらは、そろそろ終わりに近いのか

それに比べて、こちらはどうだ。

公園のベンチに座っている警備員のオッサン。

いや、もうオッサンというより、そろそろ爺さんである。

いろいろやった。

会社員。

広告。

独立。

店。

転職。

そして警備員。

あああ。

警備員になりさがって、まいった。

そんなことを思う日もある。

子供たちの未来は、これから始まる。

こちらの人生は、そろそろ終わりに近いのか。

そんな気分になることもある。

でも、本当にそうだろうか。

爺さんにも、まだ未来はある

子供ほど長くはない。

それは間違いない。

時間は有限だ。

しかし、明日がある限り、未来がゼロになったわけではない。

私はまだ文章を書ける。

今日、公園で見た子供たちのことを書ける。

警備員として経験したことを書ける。

故郷のことだって書ける。

家族のことも書ける。

まだやっていないこともある。

だったら、こちらも完全に終わったわけではない。

子供には子供の未来がある。

爺さんには爺さんなりの未来がある。

長さは違っても、

明日はまだ、誰にも書かれていない。

「さようなら、警備員さん!」

時計を見る。

そろそろ休憩終了だ。

私は弁当のゴミを片づける。

誘導棒を持つ。

公園を出ようとすると、チビッコギャングたちも帰る時間らしい。

先生が子供たちを集めている。

一人の子がこちらを見る。

「さようなら!」

「はい、さようなら」

手を振る。

子供も手を振る。

そして小さな集団は、またワーワー騒ぎながら公園を出ていく。

私は反対方向へ歩く。

工事現場へ戻る。

これから、また誘導棒を振る。

子供たちは、これからどこへ行くのだろう。

何になっていくのだろう。

分からない。

だから未来なのだ。

そして私も、まだ少しくらいなら分からなくていい。

「おじさん、何してるの?」

そう聞かれたら、

「今は警備員だよ」

と答えよう。

今は。

人生が完全に終わるまでは、その先に何があるのかは、まだ誰にも分からないのだから。

-警備員の100日物語

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広告系プランナー、フリープランナーを経て店舗経営に挑戦するも失敗。
その後、地方ホテル支配人、配送ドライバー、飲食、施設警備、交通誘導など、さまざまな現場仕事を経験。
現在は警備の現場に立ちながら、警備員や現場仕事を人生の再起の入口として発信しています。
成功談だけではなく、落ちた側・働く側のリアルを知る者として、
再起を応援する「再起プランナー」として発信中。

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