
「警備員になったら人生終わり。」
そんな言葉を、ネットで何度見ただろう。
警備員になったら、人生つんでる、なんていいかたもある。
正直に言えば、私もそう思っていた。
いや、そんなふうに思いたくはなかった。
だが、制服を受け取った日、
「ああ、とうとう、ここまで来たか」
と胸の奥でつぶやいた。
実は、警備の仕事はこれが初めてではなかった。
なんとまあ、三度目だった。
私の警備員の一度目は二十歳のころ。
自分勝手に大学を変わり、引っ越しもして、親の仕送りだけに頼れずに、生活費を稼ぐためだった。
学生の私は、警備という仕事を深く考えてはいなかった。
授業へ行くための生活費をつくる仕事。その程度の認識だった。
当時はまだ若かったから、ちょっとたまには肉体労働的な気構えで、
警備という仕事は「人生の通過点」だった。
ひたすら金稼ぐためのアルバイト。
人生の通過点なんてほどのものではない。ある種「青春の寄り道」みたいなものだった。
金を稼ぎ、ある程度たまったら、また前へ進めばいい。
それくらいにしか考えていなかった。
二度目は五十歳を過ぎてから。
20代後半から中堅の広告代理店で勤め、企画営業をやった。
30代に入ってからは、企画=プランナーの仕事が中心となり、まあまあ、活躍したが、
上司とそりが合わずに、だんだん仕事が干されてゆく。
仕方がないので、企画の技術を磨き、外の会社に営業に行き、
2社と契約したところで退職し、フリーランスとなる。
3年ほど自営のプランナー業で稼いでいて、ちょっと金が入ったのをいいことに、
飲食業に手を出し、5年で失敗。
金も、仕事も、失う。
元のプランナーはブランクのせいで、全く仕事ができずに、
アルバイトを余儀なくされる。
元の仕事がブランクで取れなくなり、
プロダクションやクライアントをフラフラ営業回りして、
稼げない分だけ、いろんな話に乗り、詐欺にもあった。
そのうちマルチ商法にのめり込み、(自分としてはそれなりの)大金を失った。
財布の中だけでなく、自信まで空っぽになった。
2度目の警備員の仕事に入る。
仕事の穴を埋めるように、また警備の制服を着た。
他に仕事が見つからないため。
だが、それも長くは続かなかった。
東北地方の小さなホテルで住み込み支配人を務めた。
新しい人生を探して、宅配ドライバーになった。
長く続かなかった。
しかも、あまり車に乗らないため、運転席の出入りが激しく、
そのため、お尻に負担がかかったため、
ひどいイボ痔になった。
もしや手術が必要かと心配したが、ボラギノールを塗るだけで、
何日かで腫れが引いた。
それでいやになり、やめた。
その後がひどい!
職安でテレアポの会社を紹介してもらった。
なれない電話の仕事で、すぐにやめてしまった。
年かさも50代末期なので、仕事がなかなか見つからず、
一念発起で、シニアの手に職をつけようと、
土木会社の門を叩き、現場代理人見習いにもなった。
そこでは、ずっと立ったままの姿勢がおかしく、
背骨がちょっと湾曲してしまい、首と腰にしびれが生じ、
3か月ほどで辞めざるを得なかった。
やめてから、接骨院を何個か通い、
治療費にまた金がかかった。
そして3度目の警備。
まあまあ、よくなってから行くところがないので、
登録した人材会社の紹介で商業施設の施設警備に入った。
そこでは、対人関係がとてつもなくきつく、
半年で辞めてしまった。
その後、もう自分の世界を変えなければ、と思い、
チェーンのラーメン屋に入り、見習いで働いた。
その頃、前の施設警備の影響もあり、メンタル的に病んでいた。
そのため、忘れ物がひどく、1か月でクビになった。
仕事を変えるたびに、「今度こそ」と思った。
だが、どれも長くは続かなかった。
そして最後にたどり着いたのが、工事現場の警備だった。
4度目の警備である。
「あーあ。とうとう来たか。」
初日の朝、そんな言葉が自然に口をついて出た。
まさか、こんなに長く続くとは思ってもいなかった。
数か月。
長くても一年。
そのくらいで別の仕事へ移るつもりだった。
ところが気がつけば、季節が何度も巡っていた。
そして、私は今日も道路に立っている。
最初は、警備員になったら人生は終わりだと思っていた。
ところが、現場には私以上に波乱万丈な人生を歩いてきた人たちが、次から次へと現れた。
元板前。
元社長。
元営業マン。
怒鳴る男。
妙に威張る女。
寡黙な老人。
みんな、それぞれの人生を背負って、この現場に立っている。
工事現場だと思っていた場所は、いつしか私には違って見えるようになった。
ここは人生の終着駅ではない。
人生の波止場だ。
傷ついた船が流れ着き、またどこかへ出航する者もいれば、そのまま静かに係留される者もいる。
そして私も、その一隻だった。

この物語は、道路工事の話ではない。
(道路工事の場面は出てくるけどね)
警備員という制服を着て出会った、人間たちの物語である。
