警備員ブルース日誌

警備現場のやりがい|別れぎわに「またどこかで」と言われた日

投稿日:2026年1月5日 更新日:

警備の仕事は、きつい。

寒さも、眠気も、足のだるさもある。立っているだけで、一日が終わる日もある。
それでも、たまに救われる瞬間がある。

「ありがとう」

通りすがりの人が、こちらの誘導に一礼して言ってくれる。
言葉は短いのに、不思議と身体の芯に入ってくる。
こちらがやったことは、派手なことじゃない。事故が起きないように、流れを止めないように、混乱させないように。ただそれだけだ。
でも、誰かの一日がスムーズに通り過ぎたのなら、それは仕事として成立している。

もうひとつ、うれしい言葉がある。
それは、同業の人からもらう。

初めて会った警備員。同じ会社所属の警備員だけど、配属された支店が違う。
なのでなかなか会うことがない。
現場が終わり、片付けをして、各自が散っていくとき。
ふと顔を上げたら、相手がこちらを見て、軽く手を上げて言う。

「またどこかで」

そこの現場では、大した話をしたわけでもない。
ちょっと気が合う感じがしただけ。
名前も知らない。年齢も、所属も、詳しくはわからない。
ただ同じ時間、同じ現場の空気を吸って、同じ方向を見て、同じ緊張と疲れを分け合った。
その短い共有だけで、人は人に「またどこかで」と言えるのかと思う。

あの言葉は、別れの挨拶に見えて、実は確認なのだ。
今日の現場を、ちゃんと終えたか。
事故を起こさず、揉め事も起こさず、誰かの通行を守り切ったか。
そして、明日もどこかで続けられるか。

でも、いや、それだけじゃないよね。

警備員の仕事は、世の中から見えにくい。
うまくいけば「何も起きない」。だから、評価されにくい。
けれど、見えない仕事には、見えない言葉が返ってくる。

「ありがとう」
「またどこかで」

この二つは、給料明細にも、日報にも載らない。
でも、心の中のどこかで、次の日の立ち上がりを助けてくれる。
きつい日ほど、その言葉が残っているかどうかが、効いてくる。

もし、いま「警備員、きつい」と思っている人がいるなら、ひとつだけ言いたい。
仕事がきついことと、仕事に価値がないことは、別の話だ。

たとえ小さくても、誰かの流れを守った日は、ちゃんと意味がある。
その意味を、他人が先に見つけてくれることがある。
それが「ありがとう」になり、同業の「またどこかで」になる。

今日も現場が終わった。
帰り道、手袋の中の指先が少し痛い。
それでも私は、あの言葉を思い出して、もう少しだけ歩ける。

またどこかで。


-警備員ブルース日誌

執筆者:

関連記事

警備員の現場でわかる街の性格|東京の土地ごとに違う空気と人間模様

工事現場の警備員をやっていると、都内のいろいろな街に行く。杉並、練馬、世田谷、板橋、渋谷、新宿、北区――。 同じ交通誘導の仕事でも、立つ場所が違えば、空気が違う。通る人の歩く速さ、声のかけ方、クレーム …

警備員として働いてわかった「やりやすい会社」と「やりにくい会社」、その対処法

工事現場で警備員をしていると、現場ごとに雰囲気がまったく違います。しかし実際に勤務していると、「この会社はやりやすいな」と感じることもあれば、「正直、もう入りたくない」と思う会社もあります。 今回は、 …

警備員の正社員とアルバイトを比較|求人選びで見るべきポイント

警備員の求人を見ていると、正社員募集もあれば、アルバイト募集も多く出ています。これから警備の仕事を始めようとする人にとっては、「正社員のほうがいいのか」「アルバイトのほうが気楽なのか」と迷うところでし …

警備員は「底辺」なのか?|人生を立て直すための、意外な穴場の仕事という現実

世の中には、警備員の仕事を軽く見る人がいます。「底辺の仕事だ」と、したり顔で決めつける人もいる。 だが、いったい誰が決めたのだろう。何をもって、人の仕事に上下をつけるのだろう。 少なくとも私は、警備員 …

警備員の仕事は意外と面白い|イベント・観光地・展示会で働く魅力とは

「警備員の仕事」と聞くと、ただ立っているだけ、地味、きつい——そんなイメージを持つ人も多いかもしれません。 けれど実際にやってみると、警備の仕事は思っているよりずっと変化があり、現場ごとに空気が違う仕 …