
高級住宅地の建築現場で起きた小さな出来事
今日は建築現場だった。
場所は、少し高級感のある住宅地。
道はきれいで、家々の門構えもしっかりしている。植木も手入れされていて、車も上品だ。こういう場所の現場は、警備員として少し気を使う。
工事車両の出入り。
通行人への声かけ。
ご近所への配慮。
歩行者の安全確認。
ただ立っているように見えて、実際には、周囲の空気を読みながら一日を過ごしている。
そんな昼前のことだった。
買い物帰りらしい近所のおばさんが、若い現場監督に声をかけてきた。
「暑くなりましたね」
そう言いながら、買い物袋の中から、買ってきたばかりのバナナを取り出した。
そして、現場監督に二本、渡してくれた。
なんということはない。
けれど、なんだか温かい光景だった。
「どうですか?」と渡された一本のバナナ
しばらくして、現場監督がこちらへ来た。
「あのおばさんがくれたんですけど、どうですか?」
そう言って、バナナを一本差し出してくれた。
ありがたく、もらった。
警備員の仕事をしていると、こういうことがたまにある。
通りすがりの人が、缶コーヒーをくれる。
近所の人が「暑いでしょう」と声をかけてくれる。
工事関係者が、飲み物を一本余分に買ってきてくれる。
現場監督が、ふとしたタイミングで気を使ってくれる。
もちろん、毎日そんなことがあるわけではない。
むしろ、きつい日のほうが多い。
でも、あるのだ。
警備の現場には、こういう一瞬が。
警備員はクレームだけを受ける仕事ではない
警備員の仕事というと、どうしても大変なイメージが先に立つ。
暑い。
寒い。
立ちっぱなし。
車に気を使う。
通行人に気を使う。
時には、文句を言われる。
クレームを受ける。
理不尽な言葉を投げられることもある。
たしかに、それは現実だ。
「なんで通れないんだ」
「早くしろ」
「邪魔だ」
「ちゃんと誘導しろ」
そんな言葉を浴びる日もある。
けれど、警備員が現場で出会うのは、怒りや不満ばかりではない。
「ご苦労さま」
「暑いから気をつけて」
「大変ですね」
「いつもありがとうございます」
そんな言葉も、ちゃんとある。
そして時々、今日のようにバナナが一本、手渡される。
差し入れには、人の情が入っている
バナナ一本。
缶コーヒー一本。
ペットボトルのお茶一本。
金額にすれば、たいしたことはないかもしれない。
でも、現場に立っている警備員にとっては、ただの食べ物や飲み物ではない。
そこには、
「見ている人は見ている」
「気にしてくれる人はいる」
「ちゃんと働いている姿は伝わっている」
という、人の情が入っている。
警備員は、街の端に立つ仕事だ。
主役ではない。
看板に名前が出るわけでもない。
誰かに拍手される仕事でもない。
それでも、その場所に立っていることで、事故を防いでいる。
車と人の流れを整えている。
工事現場と地域のあいだに立っている。
その姿を、ちゃんと見てくれる人がいる。
警備員の仕事は、やってみないとわからない
警備の仕事は、外から見ているだけではわからない。
きつそう。
年配の人が多そう。
誰でもできそう。
ただ立っているだけに見える。
そんなふうに思われることもある。
しかし実際にやってみると、意外と奥が深い。
車の流れを読む。
歩行者の動きを読む。
現場監督の意図を読む。
職人さんの作業の流れを読む。
ご近所の空気を読む。
つまり警備員は、現場の空気を読む仕事でもある。
そしてもうひとつ。
人間を見る仕事でもある。
怒る人もいる。
急ぐ人もいる。
無視する人もいる。
でも、やさしい人もいる。
気にかけてくれる人もいる。
小さな差し入れをしてくれる人もいる。
それは、現場に立ってみなければわからない。
「いいこともある」と思える日がある
警備員をしていると、正直、疲れる日もある。
朝、行きたくないと思う日もある。
足が重い日もある。
こんな仕事、早く辞めたいと思う日もある。
でも、今日みたいなことがあると、少しだけ気持ちが変わる。
バナナ一本で人生が変わるわけではない。
缶コーヒー一本で仕事の大変さが消えるわけでもない。
それでも、心のどこかが少し温かくなる。
「ああ、悪いことばかりじゃないな」
そう思える。
警備員の仕事には、そういう日がある。
文句を言われる日もある。
でも、ありがとうと言われる日もある。
無視される日もある。
でも、声をかけられる日もある。
きつい日もある。
でも、人の情に触れる日もある。
仕事探しをしている人へ。警備員は、意外と人間くさい仕事だ
今、仕事を探している人。
年齢で悩んでいる人。
未経験で不安な人。
すぐに働ける仕事を探している人。
人生を立て直したいと思っている人。
警備員という仕事は、選択肢のひとつになる。
もちろん、楽な仕事だとは言わない。
暑さもある。
寒さもある。
現場によって当たり外れもある。
人間関係もある。
しかし、未経験から始めやすい。
年齢を重ねても働ける。
日払い、週払い、週1日からなど、働き方を選びやすい会社もある。
現場経験を重ねれば、自分に合う現場、合わない現場も見えてくる。
そして何より、警備員は社会の中で必要とされている仕事だ。
人の安全を守る。
街の流れを支える。
工事と生活のあいだに立つ。
誰かの一日を、何事もなく通過させる。
それは、地味だが大事な仕事である。
警備員の現場には、人生の再起の入口がある
現場でバナナをもらった日。
それは、ただの小さな出来事かもしれない。
でも、警備員として立っていると、こういう小さな出来事が心に残る。
人は、意外と見ている。
街は、意外とやさしい。
仕事は、やってみないとわからない。
警備員は、底辺ではない。
現場に立ち、街を支え、人の情に触れる仕事だ。
もし今、仕事探しで迷っているなら、警備員という仕事を一度のぞいてみてもいい。
最初は不安でいい。
未経験でいい。
年齢を気にしていてもいい。
人生を立て直したいという理由でもいい。
現場に立ってみると、思っていたよりも悪くない日がある。
そして、ときどきバナナをもらう日もある。
やってみないと、わからない。
それが、警備員という仕事の本当の面白さなのだ。